2018年12月15日

氷の王子は花の微笑みに弱い 序章04


 サディアスとアリアが密かに逢瀬を重ねるようになって一年が過ぎた。
 城仕えをするパトリックや、ロイド公爵に会ったあとは必ずアリアの部屋を訪ね、いろいろな話をした。仕事でパトリックたちを訪ねるというよりも、アリアに会うことが目的の日も多々あった。
 サディアスはいつものように、パトリックと二言、三言話をしたあとでアリアのもとへ向かった。

(出先から戻ってきたばかりと言っていたが――)

 外出先は墓地に違いない。パトリックは全身、黒い服を着ていた。
 アリアの部屋の前に着く。扉は三分の一ほど開いていた。
 いけないだろうかと思いながらも部屋のなかをうかがう。
 部屋の隅。影に重なるようにして、黒いドレス姿のアリアがたたずんでいる。
 手元のハンカチに視線を落とし、なにやら思いつめた顔をしている。
 ドクッと大きく胸が鳴った。
 彼女が手にしているハンカチは、おそらく遺品だろう。
 ――彼女の笑顔の裏には、いつも哀しみがあったのだ。
 そのことを痛感した。いたたまれない気持ちになった。
 ノックをしてよいものか迷った。しかし、あんな顔をしている彼女を、どうしても放っておくことができなかった。
 サディアスはゆっくりとドアをノックする。
 ハッとしたようすでアリアが顔を上げ、先ほどまでの悲痛な面持ちを一瞬でかき消してこちらへ近づいてくる。

「サディアス様、いらっしゃいませ。申し訳ございません、まだ着替えもしておらず……」

 黒いドレスの裾を撫でつけながらアリアは目を伏せる。
 両手が勝手に動いて、彼女を腕のなかに閉じ込める。

「……っ! サディアス、様……?」

 ぎゅうっと抱きしめても、アリアは少しも抵抗しなかった。
 サディアスは目を閉じる。

「俺はいま、きみを見ていないから。笑顔でなくてもいい」

 彼女がどんな顔をしているのか、視界を閉ざしているのでわからない。
 しばらくすると、すすり泣くような声がかすかに聞こえてきた。
 サディアスはアリアの細い体を、いっそうきつく抱きすくめた。


 アリアが十六歳になったとき、ロイド公爵は後妻を娶った。
 公爵が再婚してすぐ、邸は増築され別棟が建った。新築された棟には公爵と、それから後妻のシンディという女性が住んでいるという。
 アリアとパトリックの居室が本棟から移されることはなかった。

「――新築された棟には一度も立ち入ったことがない?」

 サディアスは眉間に皺≪しわ≫を寄せてアリアに尋ね返した。

「……はい」

 哀しそうに笑うアリアに、その理由を聞けるはずもない。
 アリアの部屋を出たサディアスはその足でふたたびパトリックのもとを訪ねた。
 もう一度、訪ねてくるとは思っていなかったらしいパトリックは「どうされたのですか」と目を丸くした。
 メイドの給仕を断り、パトリックとふたりきりで話す。

「アリアもおまえも、新築された棟には一歩も足を踏み入れたことがないと聞いた。理由はなんだ?」
「ああ、そのことですか」

 向かいのソファに座るパトリックはモノクルの端をクイッと上げて渋面を浮かべた。

「継母の言いつけです。新婚気分を楽しみたいから、僕たちのことを視界に入れたくないそうです」

 サディアスもまた、パトリックと同じく眉間の皺≪しわ≫を濃くする。

「それは、おまえたちの心持ちをないがしろにした身勝手な考えだ」

 サディアスが憤ると、パトリックは「お心遣いありがとうございます」と言ったあとで軽快に笑った。そういう、哀しみを含んだ笑顔になると彼ら兄妹はよく似ている。

「いいんです。こちらとしても、気兼ねなく過ごせますし。殿下も、これまで通りアリアにお会いできるでしょう?」
「それは、そうだが」

 言葉を切って黙り込み、顎に手を当てて窓の外を見やる。
 頭のなかに浮かんだのは、先ほどのアリアの笑顔。
 彼女の微笑みは花のようだ。
 どこか、儚い。

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2018年12月08日

氷の王子は端の微笑みに弱い 序章03



「俺は『氷の王子』などと呼ばれているようだが、それはそういうふうに装っているだけだ。王族は、なにかに執着してはいけないらしいから……」
「そうなのですか。それは……おつらいことかとお察しいたします。……私は、執着してばかりです」
「きみはなにに執着しているんだ?」
「母の遺言です」

 少女の口から出た言葉にサディアスは思わずドキリとした。

(そうだ、パトリックはたしか……母を亡くしたばかりだと言っていた)

 しかしながら、この少女にそのような暗さは感じられない。
 訊いてよいものかとためらわれたが、無性に気になった。
 ふだんならば――氷の王子を装っているときならば、尋ね返すことはなかったと思う。

「アリア。それは、いったいどういう……?」

 サディアスが真剣な表情で訊くと、アリアは口もとに描いている弧を深くした。

「母は言いました。『私がこの世を去っても、どうか笑っていて。決して暗くならないで』と。だから私は、それを守っています。『母親を亡くしたばかりなのにへらへら笑って』と――よく思わない方もいらっしゃいますが、私は……母の言葉に執着しているのです」
「そうか……」

 大きく息を吐き、返す言葉を探す。
 逡巡したあと、思ったままを伝えることにした。

「俺は、それを悪いことだとは思わない。きみがきみらしくいられるようにすればいいと思う」
「ありがとう、ございます」

 心なしか彼女の瞳が潤んでいた。
 亡き母のことを思い出したのかもしれない。

「にゃっ」

 子猫が膝から飛び出していく。
 サディアスは上着の内ポケットから懐中時計を取り出して、時間を確認した。
 そろそろ次の公務の時間だ。

「もう、お時間ですか? それでは私は……今度こそ、失礼しますね」

 アリアが立ち上がる。
 ――別れるのが惜しい。
 なぜそう思うのか、説明はできない。

「明日……俺は所用でロイド公爵のもとへ行く予定だ」

 皆までは言わず、頬をかく。

「では、精いっぱいおもてなしいたします。ご訪問をお待ちしております」

 アリアはこちらの意図を組み、小首を傾げて微笑んだ。
 赤色のウェーブがかった髪の毛が風に揺れ、午後の陽射しがエメラルドグリーンの瞳を煌かせる。
 その姿が、目に焼きついて離れなかった。

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2018年12月01日

氷の王子は花の微笑みに弱い 序章02



(やはり聞かれていた……!)

 顔を青くしているアリアとは正反対に、サディアスの頬は瞬く間に赤くなった。

「いや、待て。せっかくだ、少し話をしよう」
「……よろしいのですか?」
「ああ。きみは優秀な我が友、パトリックの妹だ。身元はしっかりしているし、問題ない」
「ありがとうございます」

 城仕えをしているパトリックのことは同じ寄宿学校の同級生と比べて特に優秀だと思っていたが、それを周囲に漏らしたことはなかった。
 アリアは兄を褒められたのが嬉しかったのか、満面の笑みになった。それが心からのものだとわかる。

「ここに座るといい」

 ベンチに座るよう促し、自分が先に腰を下ろす。するとアリアは「はい」と返事をして、少し離れて隣に座った。
 なぜ彼女を引き留めてしまったのか、自分でもわからなかった。
 おかしな言葉遣いをしていたことの気恥ずかしさを紛らわすためか、あるいは猫以外で本音を言える話相手が欲しかったのかもしれない。
 安心感はあった。彼女はすでに約束してくれたからだ。「だれにも言わない」と。信頼できる言葉だと思った。彼女の兄、パトリックは口がかたい。
 サディアスはふとアリアを見た。深みのある赤い髪に緑色の木の葉がくっついている。サディアスは彼女の前髪に絡まっている木の葉をそっと拭い取った。

「きみは方向音痴なのか? いったいどうしたら、こんなところまで入り込めるんだ。あちこち葉っぱだらけじゃないか」

 そのことにいま気がついたらしいアリアは恥ずかしそうに頬を赤くして、ドレスの袖や裾についた葉をひとつひとつ指でつまんでかき集めた。

「お兄様から、お庭を通るほうが近道だと教えられたのです。庭を歩いていたら、小さな猫を見つけまして、それで……その子を追いかけていたらここへ出てしまいました」
「なんだ、こいつの仕業だったのか」

 サディアスは膝の上で丸くなっている猫の首をくすぐる。子猫は「にゃぁ」と小さく鳴いた。「そんなの知らない」と言っているようだった。

「本当に申し訳ございません……。その、おひとりきりの大切な時間を邪魔してしまって。……殿下は、お疲れなのですよね」
「……いや……その……」

 先ほどの独り言を思い出してまたまた恥ずかしくなった。だが彼女のことは責められない。悪気はなさそうだ。

「疲れた、というのは……本音を言う相手がいないからなんだ」

 ここがプライベート・ガーデンだからか、あるいは彼女に微笑みが絶えないからか、言葉が素直に出てくる。

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2018年11月25日

氷の王子は花の微笑みに弱い 序章01


 博愛という言葉を、毎日のように聞かされていた。


 澄みきった広大な湖のすぐそばで城は湖面にその姿を映し、威風堂々とそびえ立つ。湖上の城というのがこのクーデルライト城の通称だ。
 城は四棟から成る。総じて優美だが、城の顔とも言うべき中央棟は特に、外壁や屋根に金銀の細かな装飾が施された絢爛豪華な造りである。
 クーデルライト国の第一王太子、サディアスはその華やかな中央棟で暮らしていた。彼は今年で十八歳になる。
 公務――城を訪れる賓客との対面――を終えたサディアスは表情を無にして中央棟の廊下を歩いていた。
 訪ねてきた賓客のだれとも、掘り下げた話はしない。当たり障りのない会話をして、終わりだ。
 王族には古≪いにしえ≫より博愛主義が根づいている。
 なににも執着してはいけない。あらゆること、ものに平等であれと、サディアスは幼少期から厳しく教育されてきた。
 贔屓≪ひいき≫や執着は憎悪と抗争を生む。
 そこでサディアスは何事に対しても無関心を装っている。興味のある話題にも気のないふりをする。
 慣れれば造作もないことだが、本音を言えないこの生活を苦に思う日もある。そんなときは、プライベート・ガーデンで密かに飼っている猫を相手に愚痴を言う。
 サディアスは他のだれも立ち入ることのない自身の専用庭で、生まれて間もない子猫を抱え上げた。
 この庭は背の高い木々と、それからいくつもの生垣に囲まれた閉鎖的な空間だ。城の者は皆ここへは立ち入ってはいけないと知っているから、安心して猫と戯れることができる。

「今日は、にゃんだか疲れたにゃー」

 こんな冗談を言える人間の相手がいないことが時々、物悲しくなる。
 カサッ、という葉の擦れる音がした。

「――っ、だれだ」

 サディアスは猫を抱えたまま音がしたほうを振り返る。
 木の茂みがガザガザと動いて、現れたのは少女だった。

「アリア・ロイドでございます」

 少女はかすかな笑みをたたえていた。

「きみは、パトリックの……」

 少女は「はい、妹です」と言いながらうなずく。

(いまの独り言……聞かれただろうか)

 サディアスはコホンと咳払いをしてから話しはじめる。

「なぜ、ここに?」
「お兄様を訪ねた帰りなのですが、迷ってしまって……。このお庭は、もしかして――」
「俺以外の者は立ち入ることができない」

 アリアは微笑したまま青ざめる。

「も、申し訳ございませんでした。失礼いたします。ここへ来たことや、殿下とお会いしたこと――いましがた見たことは、絶対にだれにも言いません」

 青い顔で引きつった笑みを浮かべ、アリアはたどたどしくレディのお辞儀をした。

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2018年11月24日

青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 終章03



「腰を浮かせて……」

 腰骨のあたりをつかまれ、そうするよううながされる。
 すっかり体をとろかされているカタリーナはルイスの言いなりだ。
 執務机の上に両手をついて、なんとかしてお尻を持ち上げる。そのあとは、ルイスがうまく突き上げてくれる。

「んぁっ、あぁ……ッ!」

 大きな肉茎がみちみちと体のなかに押し入ってくる。濡襞をこすりながら奥へ奥へと進み、カタリーナの体内を我が物顔で蹂躙しはじめた。

「は、ぁ……カタリーナ」

 熱い吐息を漏らして、ルイスはカタリーナの乳首を指でなぶりながら腰を上下に揺する。

「あっ、ふぁっ……ぁ、んっ、はぅっ」

 律動に合わせて短い嬌声が出る。
 猛々しい剛直が弾みながら体の内側をこすっている。
 ぐちっ、ぬちゅっという卑猥な水音とともに快感が全身に広がっていく。
 ――気持ちいい。けれど、だんだん物足りなくなってくる。最奥をガツガツ突いてほしいなどと思ってしまう。

「もっと深いところに、ほしい?」

 カタリーナがじれるのを見計らっていたのか、タイミングよくルイスが尋ねてきた。

「ん、んんっ……もっと、ほし、い……ルイスさま……!」

 ルイスは笑みを深めて、カタリーナの体に両手を添える。

「立てる?」
「ンッ……」

 喘ぎまじりの返事をして、カタリーナはルイスの膝から下りた。執務机にもたれかかるようにして彼に尻を突き出す。
 ドレスの胸もとは乱れ、裾は腰でもたつきドロワーズは下にずらされているという淫靡な恰好でカタリーナはルイスを誘う。
 ルイスはカタリーナの乳房を左手でつかみなおし、下半身の花芽を指で押しまわしながらふたたび肉棒を突き入れた。

「ふゎっ、あ、あぁっ……!」

 肉槍はいっきに最奥までやってきて、容赦なく行き止まりを穿つ。その激しさで、つかまれていないほうの乳房がぶるぶると揺れた。

「ルイス、さまっ……あ、んぁあっ……わた、し……っ、もう――」

 すぐにでも絶頂してしまいそうだった。
 ところが彼はいじわるで、カタリーナがそう言うなり最奥を突くのをやめてしまった。
 カタリーナの隘路の入り口、ぎりぎりのところまで陰茎を引き抜き、彼女をじらす。

「や、やぅっ……」

 雄棒が体から抜けそうになってあせる。そんなふうに思ってしまう自分に愕然としながらも、彼のものを身の内に留めておきたくて必死になる。
 カタリーナが左右になまめかしく腰を揺すると、ルイスはたまらないと言わんばかりにふうっと息を吐き出した。

「かわいらしい催促だね、カタリーナ」

 ルイスはカタリーナの上半身を抱き寄せて、肉杭を奥へと突き込んで激しく前後させる。

「ぁあぁ、あっ、あぁっ!」

 絶叫に近い喘ぎ声が執務室にこだまする。
 そうしてカタリーナはルイスの尽きぬ愛に溺れるのである。

FIN.

お読みいただきありがとうございました!

熊野まゆ

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