2019年05月18日

氷の王子は花の微笑みに弱い 第三章05



(私ったら……サディアス様に全身を見られたいの?)

 そうだとしたら、なんてはしたないのだろう。

「アリア」

 名を呼ばれるたびに理性が揺らぐ。彼の望むまま、手をどけてもよいのではないかと思えてくる。
 アリアの両手から力が抜けたのをいいことに、サディアスはネグリジェとシュミーズを首の下まで一気にめくり上げた。

「……っ、ぁ」

 ふたつのふくらみが彼の目に留まる。
 見られていると思うだけで情欲の塊が湧き出てくるようだった。

(やっぱり、私――はしたないのだわ)

 愕然としながらも、体は着実に興奮を高めていく。胸飾りが尖りきってしまったのがその証拠だ。どうか気がつかないで、とアリアは願ったが、そうはいかない。

「ここ……勃ち上がったな」

 硬いつぼみを無遠慮にノックされる。

「んぅっ……!」

 押し殺したうめき声を上げてアリアは肩をすくめる。尖った箇所を隠したかったけれど、両腕を押さえつけるようにサディアスの腕が重なっている。これでは身動きが取れない。
 アリアの唇を食み、軽く啄んだあとサディアスはネグリジェとシュミーズを頭から抜けさせた。

「ひゃ、っ」

 身に着けているものがドロワーズだけになってしまい、なんとも心もとなかった。
 サディアスはアリアに恥ずかしがる暇≪いとま≫を与えない。先ほど吸ったのとは反対側の首筋をきつく吸い立てて赤い花びらを散らし、唇を肌に添わせたまま下降していった。ほんのりと赤く上気した肌にくちづけながら、ふくらみのいただきを目指す。

「あ、あぁっ……。サディアス様……ッ」

 彼の唇が薄桃色の部分に近づくと、ゾクゾクとした戦慄≪わなな≫きに襲われた。
 ――だって、もう知っているから。
 このあいださんざんそこを指でこねられたせいで、その薄桃色の尖りを刺激されるとどうしようもなく気持ちがよくなってしまうのだと、体はもう充分すぎるほど知っている。
 サディアスは身を硬くする棘にちゅっと触れるだけのキスをする。

「ふぁぅっ」

 おかしな声が出たことが恥ずかしくて、アリアは口を両手で覆った。その仕草になにを思ったのか、サディアスが息を漏らして笑うので、胸の先に熱い息が吹きかかって、また悶えることになる。

「う、うぅ……」

 アリアが身をくねらせると、サディアスは「たまらない」と言わんばかりに目を細め、眼前の小さな屹立を舌で舐め上げた。

「んんっ、う……!」

 口は両手で押さえたままなので、それほど大きな音にはならなかった。それでも、口からなまめかしい声が漏れ出てしまう。恥ずかしいと思うのに、制御できない。

「は、ぁ――……アリア」

 サディアスの右手が脇腹を這い上がってくる。ふくらみを揉み込まれ、その先端を二本の指でつままれた。

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2019年05月11日

氷の王子は花の微笑みに弱い 第三章04


 アリアは意を決し、アイスブルーの瞳を見据える。

「私っ……、この先ずっと……サディアス様のおそばにいたいです。サディアス様のことが、大好きだから……!」

 心臓がドクドクと鳴り、胸の前で作ったこぶしのなかには汗をかいた。呼吸がままならない。緊張と不安で胸が押しつぶされそうだった。
 ――サディアス様は私の告白をどうお考えになっただろう?
 わがままを言っている、と迷惑がられるだろうか。
 碧い瞳に映る自分の姿が左右に揺れる。いや、自分の視界が揺らいでいるのかもしれない。
 曇りのない瞳を見つめているのがどうしてか辛かった。
 でも、目は逸らさない。逸らしてはいけない。先ほどの言葉に嘘も後悔もないのだから。

「……っ、参ったな。先に言われてしまうとは」

 サディアスが困ったように笑う。
 とたんに、アリアのなかで張りつめていたものが緩んだ。
 アリアの頬から首筋までを両手で覆い、サディアスは言う。

「争ってでも、きみを手に入れる。これからは守ってみせる。絶対にだ。なりふりなど、もう構わない」

 彼の喉もとがゴクリと動くのがわかった。
 その一瞬、緩んでいたものがふたたび張りつめた。

「俺の妻になって欲しい」

 瞳のもうすぐそこまできていた涙が外へと零れ落ちる。
 サディアスの一言が頭のなかにこだまする。

「はい」

 涙声で返事をする。それだけでは頼りなかったので、大きくうなずいた。
 顔を上げるとすぐに、唇を塞がれる。

「ンッ……!」

 押し重なった唇は少し乾いているような気がした。

「きみが愛しくて、たまらない……っ」

 いまにも泣き出しそうな顔になって、サディアスは大きく息をつき、アリアの首筋に顔をうずめ、むきだしの肌をちゅうっときつく吸い立てた。

「ふっ……」

 鋭い痛みが走るものの、嫌だとは思わない。彼に施されるすべてのことが快い。

「アリア……ッ、愛している」

 その言葉のあとすぐ体を抱え上げられた。急に高くなった視界に驚いてサディアスにしがみつく。彼は少しもよろけることなくアリアをベッドへ運び、そっと下ろした。
 端々に白いレースがあしらわれたネグリジェを着ているアリアの全身をじっくりと見まわす。

「ネグリジェだと……無防備だな」

 そう言いながら、サディアスはネグリジェの裾をつかみ、なかのシュミーズごと引き上げる。

「ほら……きみの透けるような白い肌が容易≪たやす≫く露呈する」
「あ、っ……サディアス、様」

 胸の下までが開け広げになった。アリアは反射的に胸もとを手で覆う。

「きみの全部が見たい――と、前にも言ったな」

 真剣な表情で告げられ、アリアはピクッと肩を揺らした。
 想いを伝えあった。
 結婚の約束をした。
 ならば、もう――肌を晒してもよいのでは?
 そんなふうに、だれかが話しかけてきた。
 それは紛れもなく自分なのだが、そう思ってしまった自身を恥じる。

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2019年05月04日

氷の王子は花の微笑みに弱い 第三章03



「コホン」

 パトリックがわざとらしく咳払いをした。
 アリアとサディアスはギクリとして顔を見合わせたあと、そっと離れる。

「あ――お兄様、申し訳ございません……。レヴィン伯爵から何らかの抗議があるかもしれません」
「いい、気にするな。そのときは僕が何とかする。そもそも、おまえがレヴィン伯爵に嫁ぐなどだれも認めていない。ねえ、殿下」
「まったくだ。よりによってレヴィン伯爵とは――悪質にも程がある」

 先ほどまでとは打って変わってサディアスは恐ろしいまでの低い声でうなるように言った。サディアスはレヴィン伯爵の好色を知っていたようだ。

「私としてはアリアには何日でもいてもらいたいですけれど、これからどうなさいますの?」

 バーサがパトリックに向かって尋ねる。

「そうだな……。すまないがアリアをこのままこの邸に置かせてもらえないか?」

 パトリックは神妙な面持ちで続ける。

「僕はしばらく城に泊まり込みになりそうなんだ。アリアひとりで公爵邸に帰ればまた危険に晒されるだろう。……あの継母を何とかしない限りは」

 苦虫を噛み潰したような顔でパトリックは奥歯をギリッと鳴らす。

「承知いたしましたわ」
「なにからなにまでありがとう、バーサ」
「いいのよ。だって、私とあなたの仲だもの」

 バーサのその発言にサディアスの眉がピクリと動いたことには、だれも気がつかない。


 夕食と湯浴みを済ませ、あとはベッドに入って眠るだけだった。
 あてがわれている居室に、リトルフ侯爵邸のメイドがうろたえたようすで「王太子殿下がお見えです」と言うものだから、アリアは「へ、ぇっ!?」と頓狂な声を上げて驚嘆した。

「……邪魔をする」

 不機嫌そうな顔でサディアスが部屋のなかに入ってくる。
 侯爵邸のメイドは紅茶の支度をしていたが、サディアスは「下がっていい」と告げて給仕を断った。

「あ……申し訳ございません、このような恰好で」

 アリアはネグリジェの胸もとを押さえてうつむく。突然の来訪だったから、着替える時間がなかった。

「いや、気にするな」

 サディアスはあらぬほうを向いて言った。

(……どうして目を合わせてくれないの?)

 彼はなにかに怒っているのだろうか。サディアスの口もとが少しも弧を描いていないのが気がかりで仕方がなかった。

「その……どうなさったのですか?」

 思い切って尋ねると、サディアスはようやくアリアのほうを見た。

「……きみと、もっと話がしたかった。レディ・リトルフとはたくさん会話しているのだろう?」
「え? ええ……」

 なぜここでバーサの名前が挙がるのかアリアにはわからなかった。
 サディアスと、無言で見つめ合う。

(いまって……想いを伝えるチャンスかも)

 伝えたからといって叶うとは限らない。でも、伝えないことにはなにもはじまらない。

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2019年04月27日

氷の王子は花の微笑みに弱い 第三章02



「でもね、アリア。殿下のことを狙っている女性はたくさんいると思うの。アリアは殿下とどうなりたいの?」

 向かいのソファに座るバーサに見つめられる。
 サディアスのことを頭のなかに思い描くと、心臓の脈動が強くなった。そういうふうに感じた。

「サディアス様のことが好き。できるなら、結婚したい」

 バーサはわざとらしく「ええっ?」と訊き返す。

「できるなら、で……いいの?」

 彼女はときおり痛いところを――核心を突いてくる。

「……ううん」

 アリアは静かに首を横に振った。

「私が、サディアス様と結婚したい。彼の隣にほかのだれかがいるなんて……耐えられない!」

 想いがあふれてきて、瞳を潤ませる。

「ふふっ、やっぱりそうなのね」

 バーサはアリアの本音を引き出せたことが嬉しかったのか、満面の笑みになった。

「応援してるわ、アリア。王太子妃になっても、友達でいてね?」
「私のほうこそ! これから、どうなっても……友達でいて欲しい」
「もちろん」

 ふたりは手を取り合い、永遠の友情を誓う。


 サディアスとパトリックがメディエッサ国に発った一週間後。
 アリアはリトルフ侯爵邸の家令から、ふたりが無事に帰国したことを聞いた。
 道中は嵐に遭うこともなく安全だったという。アリアは心から安堵した。

(サディアス様もお兄様もきっと、執務が溜まっていらっしゃるわよね。それに、疲労も)

 リトルフ侯爵邸に身を寄せていることを手紙で報せたものの、彼らはすぐにはここを訪れないだろうと思った。
 ところが、そう思った直後にアリアは侯爵邸のメイドから彼らの来訪を告げられる。
 アリアは慌てて、バーサとともに侯爵邸のエントランスへ向かった。
 エントランスホールの中央で、ふたりの姿を見つける。

「アリア!」

 サディアスが大声で名を呼ぶものだから、アリアは驚いて棒立ちになった。自邸以外の――バーサや侯爵邸のメイドや家令がいるなかで――そんなふうに名前を呼ばれたことがなかったからだ。
 サディアスはアリアのことしか見えていない。彼女に駆け寄り、ぎゅっときつく抱きしめる。

「で、殿下……?」

 人前なので「サディアス様」とは呼ばなかった。すると不満そうにサディアスは唇を尖らせ、「いつものように名で呼べ」とせがんでくる。

「サディアス様……長旅でお疲れになっているでしょう? ご足労いただき、本当にありがとうございます。こんなに早く……会いに来ていただいて」
「疲れてなどいない。一刻も早くきみに会いたかった。きみからの手紙を見て、よけいにそうだった……。レヴィン伯爵になにもされなかったか?」

 アリアは「はい、なにも」と答えながらうなずく。

「そうか……よかった」

 両頬に感じる大きな手のひらの温もりをずいぶんと久しく感じる。意思とは無関係に瞳が潤んでくる――。

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2019年04月20日

氷の王子は花の微笑みに弱い 第三章01


 野菜を売りながら王都へ着く頃にはすっかり陽が暮れていた。
 人生ではじめての野菜売りは楽しかったが、板張りで揺れの激しい荷台での旅路は思いのほか辛く、お尻が痛んで仕方がなかった。
 アリアは汚れたドレスの尻をさすりながら歩き、リトルフ侯爵邸を訪ねる。
 自邸には帰れない。兄のパトリックが不在のいま、邸へ戻ったところでレヴィン伯爵のもとへ送り返されてしまうに違いない。

「夜分にごめんなさい……。しばらく、泊めてもらえないかしら」

 リトルフ侯爵邸の玄関先で、バーサは口をあんぐりと開けて驚きを露にする。

「ちょっと、いったいどうしたのっ? どうしてそんなにボロボロなの!」
「いろいろあって……。公爵邸には帰れないの」

 バーサは眉間に困惑の皺≪しわ≫を寄せてこくりとうなずく。

「わかったわ。とにかく入って」
「ありがとう、バーサ」

 アリアはお尻に手を当てたまま礼を述べてリトルフ侯爵邸へ入る。
 ゲストルームのソファに腰掛けたアリアは「あぁ」と感嘆した。

「なんて座り心地のいいソファなの……!」
「そ、そう? よくわからないけれど……苦労したみたいね」

 苦笑するバーサをよそに、メイドが淹れてくれた紅茶を、はしたないとは思ったが一気に飲み干した。するとすぐにまたメイドが温かい紅茶を足してくれる。
 たった一日だけれど野菜を売るという仕事を体験して、働くことの大変さが身に染みた。
 日夜尽くしてくれるメイドたちには感謝の気持ちを込めてアリアは「ありがとう」と言ってまた紅茶を飲んだ。


「――なんですって!?」

 昼下がりのサロンにバーサの憤然とした声が響く。
 馬車に詰め込まれてレヴィン伯爵領へ行ったこと、そこから荷馬車に乗って帰ってきたことを話すとバーサは美しい顔を惜しげもなく歪めて怒りを露にした。

「シンディ様はなんてひどいことをなさるの! それもこれも、きっとパトリック様がご不在だからだわ」

 そう言われてみれば、兄のパトリックがこれほど長く家を空けるのははじめてだ。

「サディアス殿下とパトリック様が帰国なさるのは明日だったわよね? お城に手紙を出しておきましょう。あなたはここにいるって伝えておかなくちゃ、パトリック様がご心配なさるわ。ロイド公爵邸に出しても、シンディ様に握りつぶされかねない」

 彼女の言う通りだ。シンディはアリアがバーサと懇意にしていることを知っている。
 バーサの指示で侯爵邸のメイドが紙とペンを持ってやってきた。アリアはサディアスに宛てて手紙をしたため、侯爵邸の執事に預けた。

「それにしても、殿下の愛妾になりたいとおっしゃるなんて……シンディ様はある意味、肝が据わっているわね」

 呆れたようすでバーサはティーカップの紅茶をすする。

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