2018年01月14日

スパイラル・ストラップ07



「じれったそうだね?」

 神澤がクスッと笑ったのがわかった。ああ、彼はあえてそこに触れないようにしているのか。

「ふ……っ」

 乳輪の際を彼の指が行ったり来たりする。指の勢いだけはよくて、すぐにでも尖りの部分へ行き着きそうなのに、そうはいかず引き返してしまう。
 何度も何度もそんなふうにされて、じれったさは募るいっぽうだ。

「きちんとお願いできたら触ってあげるよ」
「お、ねがい……?」
「そう。何のことか、わかるよね?」

 目隠しされているにもかかわらずぎゅうっと目を閉じる。そうしてしばし考えた。意地を張るか、気持ちに正直になるか。

「齋江さん」

 突然、耳もとで名前を呼ばれ、優香はぴくっと唇を震わせる。なにも見えないいま、低くかすれたささやき声はいやに誘惑的だった。
 優香は観念して彼に言う。

「乳首……さわって、ください」

 自分が考えていたよりも小さな声しか出せなかった。彼はこれくらいで納得するだろうか。

「――ん、俺も触りたかった」

 弾んだ声が返ってきて、乳頭をつまみ上げられる。

「は、ん……っ!」

 じれた体には強すぎるくらいの刺激だった。乳首を引っ張る指にはたいして力がこもっていない。それなのに、つまみ上げられた瞬時、甘い疼きが体じゅうを駆け巡った。

「あ、ぁっ……!」

 浅くつままれたままキュッ、キュッとリズミカルに引っ張られる。
 視界が閉ざされているいま、ささやかな刺激でも強い快感につながる。
 小さく喘ぐ優香を見下ろして神澤は口もとに弧を描く。
 それから、彼女に気取られないようにするためか緩慢な動きで頭を低くして優香の胸もとに顔を寄せた。
 赤い舌が、尖りきった薄桃色の棘をつつく。

「ふぁっ!?」

 いったいなにがそこに触れたのか、すぐにはわからなかった。
 しかしながら、生温かくざらついたものといえばひとつしかない。

(舐め、られてる……!)

 自覚するなり全身が粟立った。彼が胸の先を舐めている姿を想像して、よりいっそう官能を刺激される。

「んぁ、あ……はぁっ」

 優香は脚の付け根もじもじとこすり合わせて身もだえする。

(目隠しされて、手足も縛られて――なんて、初めてのことだけど)

 意外と抵抗感がない。それどころか、よけいに興奮しているのではないだろうか。

(気持ちいい……っ)

 酒の勢いで上司の家にきて、こんなふうに拘束されて。乳首を舐められて悦んでいる。
 神澤とは将来を誓い合った仲でも何でもないのに――職場の上司だというのに、ふしだらなことをしている。
 いまの優香にはそんな背徳感すら快感を助長するばかりだ。

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posted by 熊野まゆ at 06:28| スパイラル・ストラップ《連載中》

2018年01月13日

スパイラル・ストラップ06


 ちょうどすっぽりと目もとを覆うことができそうなその布紐の用途は容易に想像がつく。

「ご名答」

 優香がなにも言っていないにもかかわらず神澤はニイッと笑った。どうやら彼には優香の心の声が聞こえるらしい。あるいは顔に書いてある。「その紐で視界まで奪うつもりなのか」と。
 神澤は優香の双眸に平らな布紐をかぶせて目隠しをした。
 目の前が真っ暗になり、ますます不安になる。次になにをされるのか、彼はいまなにを見ているのか。そして、彼がいまどんな顔をしているのかまったくわからない。

「な、なにかしゃべってもらえません?」

 神澤がなにも言わないのもまたいたたまれない。

「なにか――……そうだな。きみの乳首、きれいな色してる」
「そっ、そういうことじゃなくてっ!」

 彼がいまどこを見つめているのかその言葉でわかってしまい、優香は身をくねらせた。

「なに、もじもじしちゃって。かわいいけど」
「……!」

 いったいどういう風のの吹きまわしだろう。神澤にはけなされることは多々あっても、褒められたり増して愛でられたりすることはなかった。いや、申し訳ていどに褒められることはあったような気がするが、これほどストレートな言いまわしではない。

「触ってもいいかな」
「だ、だめです。触らないでください」
「はは、そんなの無理だよ」
「じゃあ聞かないでくださいっ!」

 だってきみがなにかしゃべろって言うから、と反論して神澤は優香の双乳をぐにゃりとわしづかみにする。

「やっ!」

 優香はビクッと肩を震わせた。彼の両手は思いのほか冷たい。
 こんなふうに、だれかに胸を触られるのはいつ振りだろう。ただ揉まれているだけだというのに、脚の付け根がむずがゆくなってくる。そこはまだバスタオルに覆い隠されているのがせめてもの救いだ。多少モジモジしたところで彼には勘付かれないだろうと思った。
 しかし、優香の心理を見透かして意地悪をしているのか、神澤はバスタオルをいっきに剥ぎ取ってしまう。
 いよいよ丸裸になって、優香は言いようのない焦燥感に見舞われる。
 視界は真っ暗、手は動かせない。神澤は次の行動を予告してくれるわけではない。
 そうしているあいだにも胸はぐにゃぐにゃと揉まれ、先端が凝り固まっていく。
 いつそこに触れられるだろうかと身構えるものの、いっこうにそうはならない。

「ん、んぅ……」

 優香の息が自然と荒くなる。いや――乳首に触れられたいなどと、待ち望んでいるわけでは決してないのだ。

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posted by 熊野まゆ at 06:55| スパイラル・ストラップ《連載中》

2018年01月07日

スパイラル・ストラップ05


 視界は神澤で埋め尽くされている。なにがどうしてこんなことになっているのだろう。
 「家に連れて帰るよ」と言われたことは何となく覚えている。そのときじつは淡く期待した。彼となにかあるのではないか、と。
 期待はしたが、縛られることを望んでいたわけではない。

(私を縛って、どうするつもりなんだろう……?)

 彼が筋金入りのサディストなのはすでに知っている。だからこそ、空恐ろしくなる。
 記憶にないこととはいえ縛られることに同意してしまった以上、従わないわけにはいかない。
 優香が大人しくなると、神澤は彼女の両手を頭の上でひとまとめにした。平たい布紐を手首に巻きつけて優香の自由を奪う。
 紐を巻きつけ終わると、神澤は嬉しそうに口角上げた。それから、緩慢な手つきで優香の体を覆うバスタオルの端をつまむ。

「あ……で、電気……消してもらえますか」

 自分の体に絶対の自信があるというわけではないから、明るいところでは見られたくない。すると神澤は「ああ」と言っていったんベッドからおりて、シーリングライトのリモコンを手に取った。
 神澤は天井のライトに向けてリモコンのボタンを何回か押した。

「……あ、あのっ?」

 どう考えても、さっきよりも明るくなっている。

「明るさは五段階調整できるんだ。いちばん明るくしておいた」
「え――えぇっ!?」

 彼は聞き間違えたのかと思った。いや、「電気を消して」という言葉をどうやって聞き間違えるのだ。そのほうが難しいに決まっている。
 よけいに明るくなった寝室で、神澤はあらためて優香に馬乗りになる。
 優香の体のバスタオルをつかみなおし、クッと引っ張って彼女の胸をあらわにする。

「ゃっ……!」

 つい両手に力が入るものの、手首は紐でぐるぐる巻きにされているし、ご丁寧にベッドの柵に紐の端をくくりつけてあるので、柵がわずかばかりきしむていどで両手は少しも動かせない。胸もとは隠したくても隠せず、彼が明るい照明の下でまじまじとそこを見るのをどうすることもできないのだ。
 優香の頬が瞬く間に羞恥の色へと様変わりする。

「……恥ずかしい? 全身、真っ赤になった」

 指摘されるとよけいに羞恥心を煽られる。優香は下唇を噛んでうつむく。しかしそうして目に入るのは自分自身のさらけ出された乳房だ。もはや目のやりどころがない。
 もう、目は閉じてしまうほうがまだいいかもしれないと思ったそのとき、神澤が今度は幅の広い布紐を手に持っていることに気がついた。

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posted by 熊野まゆ at 06:53| スパイラル・ストラップ《連載中》

2018年01月06日

スパイラル・ストラップ04



「……どうぞどうぞ。よく頑張ってくれたからね。好きなだけ飲むといい」

 神澤はあきらめたようにそう言って、手もとの呼び鈴を鳴らした。チリン、という音が響くと、すぐに着物姿の店員がやってきた。
 それからふたりは浴びるように酒を飲んだ。酒の肴が美味しかったせいもある。
 優香に至っては酔いつぶれ、座椅子の背に体をあずけて舟をこぐ始末だ。

「齋江さん、帰るよ。自分の家はちゃんとわかる?」

 カクン、カクンと頭を揺らす優香のかたわらで神澤は彼女の肩をそっとつかんで揺らす。

「むぅ……わかりませんぅ……」

 そのあとも神澤は何度も優香の名前を呼んで体を揺らした。しかし優香は「んん」と言うばかりでうつろだ。

「……じゃあ、俺の家に連れて帰っちゃうよ?」
「はひ……」

 それから、どうやって居酒屋を出たのかまったく覚えていない。酔いがさめたころには、神澤の家にいた。
 どういうわけか、なにも着ていない。言われるままシャワーを浴びて、バスタオルを体に巻きつけただけの状態で彼の寝室のベッドに腰掛けている。

(あれっ? ええと、これは……)

 寝室には自分しかいない。神澤の姿はない。そういえば、シャワーを浴びてくると言っていたような気がする。
 寝室の扉が静かに開いた。現れたのは、腰にバスタオルを巻いただけの神澤。
 優香は自分の頬に急激に熱が集まるのを感じた。

(休日はジムに行ってるって前に言ってたっけ……)

 神澤の、鍛え上げられた上半身から目が離せない。釘付けになる。

「寝てるかと思った。具合はどう?」

 神澤は優香のすぐそばに腰を下ろした。顔色をうかがうように顔をのぞき込まれ、優香はギクリとして視線を逸らす。

「へ、平気です」

 彼が入浴して間もないからか、熱気が伝わってくるような気がした。いや、彼のことを意識しすぎて自分がのぼせているだけかもしれない。

「じゃ、縛っていいかな」

 優香は何度もまばたきをした。
 彼の発言の意味を理解するまでに時間がかかる。縛るものといえば、リサイクルに出すダンボールだとか雑誌の束だとか。そういったものを連想したのだが、彼が言っているのは別のものだろう。

「ええと……なにを縛るんでしょうか」
「齋江さんの手首だよ」

 いったいどこから取り出したのか、神澤はすでに細長い紐を持っていた。梱包用の紐というわけではなく、着物を着るときに使うような平らな布紐だ。

「どうしてそんな話になっているんでしょう……?」

 顔を引きつらせる優香に向かって神澤は平然と言ってのける。

「きみ、シャワーを浴びる前は『いいです縛ってくださいー』って言ってたよ。覚えてない?」
「ま、まったく記憶にありません!」
「記憶になくてもきみがそう言ったのには違いないから」

 トンッと肩を押されれば体はたやすく傾いて、ドサリと音を立ててベッドの上に仰向けになる。

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posted by 熊野まゆ at 06:38| スパイラル・ストラップ《連載中》

2017年12月31日

スパイラル・ストラップ03


 優香はひとり「うん、うん」とうなずいてノートパソコンのキーボードを叩く。それからしばらくは集中して作業していた。だから、見た目は爽やか、中身は鬼畜な上司がすぐそばに立っていること、それからほかにはだれもいなくなっていることにはまったく気がついていなかった。

「――お疲れさま」

 頬に冷たいものを感じて、優香は両肩を跳ねさせる。思いがけずタイプミスしてしまった。
 目の前に差し出されたのはよく冷えた栄養ドリンクだった。

「あ……主任。お疲れ様です」

 クマ印の栄養ドリンクを受け取りながら優香は彼の方を向く。神澤は優香のとなりの椅子に腰を下ろした。コンビニの袋をカサカサと漁って、取り出したのは肉まんだ。

「これ、食べる?」
「いただきます」

 もらえるものは遠慮なくいただく。見たところ肉まんは彼のぶんもある。手渡された真っ白な肉まんはほどよく温かかった。

「悪いね、齋江さん。連日残業させちゃって」

 神澤と並んで肉まんを頬張りながら、いつの間にかふたりきりになっていることに優香はようやく気がついた。

「この部署には来たばかりだから……知らない人には仕事を頼みづらくて」
「えー、主任って遠慮するタイプだったんですか?」

 この数週間で彼にはかなり軽口を叩けるようになっていた。聞けば、彼はじつは同い年だったのだ。
 神澤は笑いながら「そうだよ」と返す。

「でも俺の見込みどおり、きみは仕事がよくできる。失敗から学ぶ力もある。電話のストラップ、いいと思うよ。見た目はアレだけど」
「もう……主任は一言、多いんですよ」

 だが褒められて悪い気はしない。優香は肉まんをぺろりと平らげ、グビッと栄養ドリンクを飲み干してからふたたび作業を再開した。


 神澤と協力して一大プロジェクトを終えた優香は彼に誘われて居酒屋にいた。
 ふだんの飲み会では行かないような、落ち着いた雰囲気の座敷で、しかも個室だ。

「た、高そうなところですね」

 床の間には達筆な字でなにか書かれている掛け軸と、花と鳥が描かれた小ぶりの壷が置いてある。麗しい神澤の背景としては申し分ないが、高級感にあふれていて気後れする。

「心配しなくていいよ。俺が全部出すから」
「それはどうも、ありがとうございます」

 優香はあっけらかんとしてそう言って、お品書きに目を通す。

「齋江さんさぁ……俺に以前、遠慮するタイプじゃないって言ってたけど、人のこと言えないよね」
「私、遠慮するタイプなんですとか言いましたっけ? あ、とりあえず生、注文していいですか?」


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posted by 熊野まゆ at 08:33| スパイラル・ストラップ《連載中》


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