2016年02月14日

満員電車のデキゴコロ01


 薄桃色の花びらが舞う祝いの季節。新生活に心躍る、うららかな春。

「うぅっ、く……!」

 晴れやかな気分とさわやかな気候とは裏腹にうめく。
 通勤、通学時間帯の電車を美奈《みな》はあなどっていた。

(こんなに窮屈だなんて……っ)

 四方を人の壁にはばまれていて息苦しい。
 真新しいセーラー服は今日初めて袖を通して外出したというのに、すでにしわくちゃになりつつある。

「――美奈ちゃん、大丈夫?」
「あ……優人くん」

 人の壁のスキマをぬってこちらに近づいてくるのは8つ年上の幼なじみだ。
 1年前に社会人になった彼のスーツ姿は最近ようやく板についてきた。
 優人《ゆうと》は美奈の前までやってくると、彼女をかばうように足を広げて立った。

「ありがとう、優人くん」

 背中はあいかわらず押されっぱなしだが、前は彼のおかげでかなり楽になった。

「美奈ちゃん、びっくりしたんじゃない? 俺も初めてこれに乗ったときは会社に着く前に疲れちゃってさ」
「うん、こんなに混んでて苦しいなんて、知らなかった……。優人くん、毎朝たいへんなんだね」

 美奈の言葉に優人は苦笑いを浮かべて肩をすくめた。

「もう慣れちゃったけどね」
「そっか……。私は、慣れるまでにまだまだ時間がかかりそう」

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posted by 熊野まゆ at 11:11| 満員電車のデキゴコロ《完結》


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