2016年02月28日

満員電車のデキゴコロ05


 耳もとをかすめるのは熱い吐息。彼もまた興奮しているのだろうか。

「んっ……。は、ぅ……っ」

 電車が橋にさしかかって、振動の具合が変わる。小刻みにうごめく指の動きにくわえて、外側からも揺さぶられている。
 美奈は口を押さえていないほうの手で優人のスーツのジャケットをぎゅうっとつかんだ。そんなふうにジャケットをつかんでいたらシワが寄ってしまうのだが、このときはそんなことを考えている余裕はなかった。
 彼の指の動きはどんどん速さを増していく。ちょうど電車も橋を渡り終えて、スピードが上がった。
 ぐちゅちゅとナカを引っかきまわされている。水音がまわりに聞こえていないか、とても不安だ。そうして快感を煽られているところに、

「――美奈ちゃん」

 吐息交じりのつやっぽい声でポツリと名を呼ばれ、いっきに快感が高まって弾けとぶ。

「……っ! ンンッ……」

 びくびくと下半身が甘く打ち震える。名残り惜しそうに、優人の指が遠のいていく。

「もうすぐ美奈ちゃんが降りる駅だ」

 優人がボソボソと言った。美奈は恍惚とした表情のまま彼を見つめる。

(これで、終わり……?)

 頭のなかの理性的な部分が「イエス」と答える。
 これから入学式だし、優人だって仕事がある。けれど離れがたいのは、この戯れが気の迷いで終わってしまうかもしれないと思ったからだ。

「――っ、優人くん、わたし……」

 美奈が口をひらく。タイミング悪く電車が駅に到着してしまう。

「……いってらっしゃい。学校まで、気をつけてね」

 人ごみに押されて遠ざかっていく。
 優人の顔は、憂いを帯びて見えた。

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posted by 熊野まゆ at 06:23| 満員電車のデキゴコロ《完結》


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