2016年03月05日

満員電車のデキゴコロ06


 ただいま、と心のなかだけで言う。
 入学式を終えた美奈はひとりで家へ帰宅した。母親は仕事へ行ってしまった。出張だと言っていたので、2、3日は帰らない。
 美奈はリビングのソファに寝転がってスマートフォンの画面を眺めた。
 KINEアプリを立ち上げ、優人にメッセージを送る。これはいつものことだ。いつもどおり『今日は晩御飯、いる?』と尋ねた。
 優人の家はとなりだ。母子家庭の美奈に対して優人の家は父子家庭。彼の父親は海外出張中なのでほとんど家にいない。優人が美奈の家で夕飯を食べるのは日常的なことだった。

(いつもどおりの、ことなのに……)

 メッセージを送ったものの、彼はまだ仕事中なのですぐには既読はつかないし返事もこない。それはわかっていることなのに、今日はとても気になってしまう。
 美奈はそわそわと体を動かしながら返事を待つ。
 ピロリン♪ というメッセージの受信音に、心臓が跳ねる。

『ご飯、いる。7時に帰る』

 返信はそれだけだ。いつもとなんら変わりない。

(このままうやむやになっちゃったら、どうしよう)

 スマートフォンを手にしたままノソリと起き上がる。
 このまま、今朝のことはなかったことにされてしまったら――。

(……ううん。とにかく晩ご飯を作ろう)

 時計を仰ぎ見る。5時をわずかばかり過ぎたところだ。

(買い物に行かなくちゃ)

 もたもたしていたら、優人が帰ってくるまでに食事を作り終えることができない。
 美奈は制服のまま、財布を片手に家を出た。

前 へ l 目 次 l 次 へ


posted by 熊野まゆ at 06:23| 満員電車のデキゴコロ《完結》


ページトップへ