2017年04月16日

秘されし、その甘やかな救済 第一章05


 ――暑い。
 ああ、そうだ。シーツにくるまっているからだ。早く目覚めなければ。神殿の朝は早い――。


 パチリと目を開けるとそこは見知らぬ天井だった。
 暑くて寝苦しかったはずなのに、いまは開放感がある。
 隣にだれかの気配を感じて、ゆっくりと横を向く。

「おはよう」

 爽やかな笑みは絶世だ。うまくできすぎた絵画のように造作の美しいシュバルツ公爵の顔がそこにある。

(私……あのまま眠ってしまったんだわ)

 いま何時だろう。早く出仕しなければ。ラティーシャは挨拶も返さずにあわてて身を起こす。
 パサリ、と衣摺れの音がした。それはシーツが体から落ちた音だった。
 下を向く。目に入ってきたのは自身の谷間。

「……寝苦しそうだったから、ゆるめた」

 それはまるで弁解だった。やましいことはしていない、と言いたいのだろうか。それでも、ラティーシャはパニックを起こす。

「ぃっ――やぁあぁぁっ!!」

 絶叫して胸もとを押さえる。
 なにも、胸のすべてを見られたわけではない。谷間のあたりをほんの少しだ。しかし、ウブでしかも男性不信のラティーシャにとっては大変なことなのだ。

「あー、ええと」

 マティアスはおろおろと両手を所在なげに動かした。

「――失礼します」

 ノック音と同時に声が聞こえて、すぐに扉が開いた。部屋の中に入ってきたのは家令だと思われる。銀髪の家令はベッドにいるふたりを見るなり顔をしかめた。

「――っ、濡れ衣だ。まだなにもしていない」
「まだなにも申し上げておりませんが。……なにかするおつもりだったのが見え見えですね。女性の使用人を呼んで参りますので、少々お待ちください」

 きびすを返す家令をラティーシャが引き止める。

「えっ、いえ! 私はもうおいとましますから! ええと……おふたりとも、後ろを向いてくださいますか。服を直します」

 ラティーシャが言うと、マティアスと家令はそれぞれに顔をそむけた。そのあいだにラティーシャは手早く長衣の前を正し、ベッドから抜け出した。

「大声を出して、お騒がせして申し訳ございませんでした。……失礼します」

 取り乱してしまったのが恥ずかしくて、とにかく一刻も早くこの場から立ち去りたかった。それなのに、マティアスに裾を引っ張られて転びそうになる。

「――っ! あのっ、公爵さま!?」

 いまだに頬が赤いラティーシャがマティアスを振り返る。

「待ってくれ。どうやら俺は本格的にきみに惚れてしまったらしい。きみは俺が思い描いていたとおりの女性だ。どうか……俺の妻になって欲しい」

 ラティーシャはポカンと口を開けた。

「い……妹ではなくて?」

 昨晩、彼は妹が欲しいと言っていた。もしかしたら聞き間違いかもしれないと思ってラティーシャは尋ねた。

「妹でなく、妻に。俺の伴侶になって欲しいんだ」

 もともと赤かったラティーシャの頬はいっそう色味を増した。

前 へ l 目 次 l 次 へ




ページトップへ