2017年04月22日

秘されし、その甘やかな救済 第一章07



「あの、着替えはけっこうです。私はすぐにおいとまいたしますので」

 ラティーシャが女性の使用人に向かってそう言うと、

「まあ、それは困りました……。私はご主人さまからラティーシャさまのお召し替えを言いつかっておりますので」

 女性は困ったような笑みを浮かべるのだ。ラティーシャはしぶしぶドレスへと着替える。
 神殿へ休暇を申請されてしまったラティーシャは戸惑うばかりだった。

(なにをして過ごそう?)

 ラティーシャに趣味らしきものはひとつもない。されるがまま、女性の使用人にドレスを着せられながらラティーシャは考えあぐねた。


「今日は俺も休みをとっているんだ。一緒に街へ出掛けないか?」

 食堂で食事を終えるなりマティアスが言った。

「いえ……ご遠慮いたします。お食事、とても美味しかったです。ありがとうございました」

 ラティーシャは席を立ち、マティアスに深々と頭を下げる。

「それでは……」

 ラティーシャが帰るそぶりを見せるなりマティアスも椅子から立ち上がった。

「待て、ラティーシャ。礼をさせて欲しいと言っただろう」
「とても豪華なお食事でした。お礼はじゅうぶんいただきました。このドレスは洗って後日お返しします」

 よく知らない男性とふたりきりの食事は大いに緊張した。彼が使用人を下げてしまったせいでよけいにそうだった。ラティーシャはそそくさと扉へ向かう。
 しかしマティアスのほうが早かった。マティアスは扉の前に立ち塞がって通せんぼをしている。

「……公爵さま」

 不躾だとは思うが彼をにらみ上げる。そこをどいて、と目で訴えかけてみる。

「街へ行こう。きみにドレスを買いたいんだ」

 ラティーシャはふるふると首を横に振る。

「そんな必要はありません。それに、街は……嫌です。……怖い」

 ――街は怖い。
 過去、何度も誘拐されそうになったことがあるし、なにかと声を掛けられる。

「俺のそばにいれば平気だ」

 マティアスが悠然とほほえむ。

(……公爵さまのことも、いまだに怖いんだけれど)

 ラティーシャは困り顔で彼を見つめる。

「……そんなに見つめられると、照れるな」

 マティアスはポッと頬を赤くさせた。ラティーシャを帰してくれる気配は微塵もない。

「私、本当にもう……」
「――ラティーシャ」

 マティアスがドレスの袖をつまんで返事をうながしてくる。

「……わかりました」

 ラティーシャがしぶしぶそうつぶやくと、マティアスはニイッと満足げな笑みになった。

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posted by 熊野まゆ at 09:36| 秘されし、その甘やかな救済《完結》


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