2017年05月03日

秘されし、その甘やかな救済 第二章04



「この邸に滞在するからといって無理に結婚を迫ったりはしない。あくまできみの身の安全を考慮した上での提案だ。……まあ、下心が少しもないわけではないが。あの男ほど俺は下劣ではないつもりだ」

 マティアスが苦笑いを浮かべる。

「……宿舎へ帰ってもいいが……護衛をつけさせてくれ。十人は必要だな」
「そっ、そこまでしていただくわけには」
「そうだろう? だからこの邸に留まってくれ。そのほうが護りやすい」
「……っ」

 ラティーシャはパクパクと口を動かしたあと、目を伏せてコクリとうなずいた。

「……それでは、なにかお手伝いをさせてください。あまりお力にはなれないかもしれませんが、頑張りますので」

 マティアスは困ったような笑みになった。

「うん、やっぱりきみは働き者だね。……では、俺の身のまわりの世話を頼もう。もちろん、きみが邸にいるあいだだけでいい。神殿へはいつもどおり出仕してくれ。道中は護衛をつけさせてもらうけどね」
「……はい。なにからなにまで、本当にありがとうございます」
「よし。じゃあさっそく俺の湯浴みを手伝ってもらおうかな」
「は――いっ!?」
「働いてくれるんだろう?」

 マティアスが立ち上がる。

「え、ええと、あの……」
「きみも服をすべて脱いでくれるね?」

 マティアスはいたずらっ子のようにニイッと口の端を上げている。
 ラティーシャはあわてふためくばかりだ。

「――マティアス様。ご冗談はそのくらいになさっては。ラティーシャ様が倒れてしまわれますよ」

 ラティーシャの顔はよく熟れた果実のように真っ赤になっていた。

「はは、すまない。つい……きみがあまりにも可愛らしいから……。さ、行こうか」

 部屋を出て行こうとするマティアスをラティーシャは追う。ルーサーと、それから女性の使用人たちには「お世話になります」と口早に言った。

「きみも着替えたほうがいいな。ネグリジェを用意させよう」

 マティアスが言うと、女性の使用人が「かしこまりました」と答える。
 ラティーシャはマティアスの寝室に移動した。間もなくして先ほど居合わせた女性の使用人がネグリジェを持ってきてくれた。ラティーシャはネグリジェを握りしめたままおずおずとマティアスに話しかける。

「あ、の……私が服を着たままでよろしければ、湯浴みのお手伝いをいたします。このお邸に置いていただくのですから、ご奉仕しなければ」

 するとマティアスは驚いたような顔になった。

「きみは……本当に真面目だね」

 彼が小首を傾げる。

「では、手伝ってもらうとしよう」

 浴室は寝室と続き間になっていた。バスタブにはすでに泡が漂っていた。マティアスの帰宅時刻に合わせてあらかじめ使用人が準備していたのだろう。

前 へ l 目 次 l 次 へ


posted by 熊野まゆ at 06:43| 秘されし、その甘やかな救済《完結》


ページトップへ