2017年05月07日

秘されし、その甘やかな救済 第二章08



「ラティーシャ、こっちの果実酒はどうだ? 甘くて飲みやすいぞ」
「いいえ、私は本当にけっこうですから」
「なんだ、そんなに酒グセが悪いのか?」
「……わかりません。お酒を飲んだことがないので」
「では試してみよう。きみは酒グセがよいのか悪いのか、俺はとても興味がある」

 ――もし酒グセが悪かったら、彼は求婚を取り下げるだろうか。

(いやだ、私……なにを考えているんだろう)

 結婚したくないのなら酒グセが悪いふりをすればいい。しかしラティーシャはそうは考えなかった。飲まされても平静でいなければ、と思ってしまった。
 そうしてラティーシャが秘かに悩んでいるあいだにマティアスは小さな円筒形のグラスに果実酒を注いだ。

「どうぞ」
「あ……ありがとうございます」

 ここで酒を断るのはかえって失礼だ。
 ラティーシャはグラスを両手で持ち、クイッと傾けて果実酒を口にする。

「どうだ?」
「甘くて……美味しいです。ベリーの香りがします」
「ではどんどん飲んでくれ」

 マティアスはラティーシャが持つグラスに酒を注ぎ足す。

「いいえ、一杯だけでじゅうぶんです」
「遠慮するな。……そうだな、きみが巫女になる前祝いだと思って」
「巫女に……なれるでしょうか。私――」

 淫行と飲酒だ。いまさらそれを自覚した。ラティーシャの表情が曇る。

「なれるさ、きっと。きみは神を信じているんだろう?」

 ラティーシャは言葉なくうなずく。

「神は思いのほか寛容だ。酒を飲んだくらいで咎めはしない。むしろ彼も――」
「彼……とは?」

 ラティーシャは首を傾げる。

「いや、忘れてくれ。とにかく、祝い酒なんだから浴びるように飲んでいいんだ」

 何だか無茶苦茶な理屈だが、果実酒が美味しいせいでうながされるまま飲み干してしまう。
 グラスは小さい。ゆえに、どれだけ飲んだのかさっぱりわからない。

「……もう、おなかいっぱいです」

 ひっく、としゃっくりしながらラティーシャが言った。すっかり酔っ払ってしまったラティーシャをマティアスはたまらないといったようすでうっとりと見つめる。マティアスのほうはラティーシャに酔っている。

「髪の毛に触れてもいいか?」
「んん……」

 マティアスが銀の髪の毛を指で掬う。

「……きみは本当は人恋しいんじゃないか」

 マティアスは真剣な声音で話し続ける。

「きっと、寂しいんだ。だから自分の殻に閉じこもる。……俺は、そうだった」

 掬い上げた銀の髪束にマティアスが口付けを落とす。

「俺はきみを傷つけない。絶対に裏切らない。生涯、きみだけを愛する」
「……!」


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