2017年06月03日

秘されし、その甘やかな救済 第三章01


 機は熟し、その日がやってきた。

(私……こんな状態で昇格試験を受けてもいいの?)

 心の中には迷いしかなかった。公爵邸での出来事を思い出し、奉仕中にもかかわらず頬が熱くなる。ラティーシャは神殿の奥の間へと歩いていた。

「緊張してるの? ラティーシャ」
「は、はい……」

 前を行くのは母親違いの姉であるイザベラ・カトラーだ。彼女は先輩の巫女でもある。イザベラは黄みを帯びた肌に黒い髪の毛、とラティーシャとはまったく異なる風貌である。

「きっと大丈夫よ。さあ、こっちよ」

 イザベラに先導され、ラティーシャは神殿の奥へ奥へと進む。
 巫女見習いになって三年が経つと、巫女になるための昇格試験を誰もが受けることができる。どんな試験が待ち受けているのか、事前には知らされないのでわからない。

(いまのところ、巫女の昇格試験に落ちた人はいないらしいけれど)

 しかしそれはみなが清く正しく敬虔に神を信仰していたからに違いない。

(それなのに私は……)

 マティアスに秘めたところをさらし、あまつさえ舌で舐めしゃぶられてしまった。あのあとラティーシャはあまりの羞恥と快感で気を失ってしまい、それ以来マティアスには性的なことをされていない。「また失神されてはたまらない、きみの体が第一だ」と言っていた。
 ただ一度とはいえ、浴室でのことも含めふしだらなことをした事実は変わらない。その行為を後悔しているわけではないけれど、こんな自分は巫女にはふさわしくないのではないかと思うのだ。
 ラティーシャは悶々としたまま、神殿のもっとも奥まったところにある祈りの間に着いた。
 そこはほかとは一線を画していた。神殿内はそもそもそうだが、ここはよりいっそう天井が高い。複雑に組み合わされた扇形のヴォールトが垂直方向の大空間を実現している。
複数の丸い天窓から一直線に差し込む光は柱のようにそれを――花瓶に活けられた薔薇を囲んでいる。

「あれは……蔓薔薇、ですか?」
「そうよ。あの薔薇に触れれば、お目にかかれるの。私たちの神様に」

 イザベラの言葉を聞いてラティーシャは首を傾げる。

「私はいまから昇格試験を受けるのですよね?」
「ええ、そうね。試験……というほどのものではないわ。あなたなら大丈夫。さあ、触れてみて。その蔓薔薇に」

 イザベラはラティーシャではなくなにもないところに向かってウィンクをした。その行動の意味がわからず、ラティーシャはますます首をひねる。
 わけがわからないままおずおずと歩みを進め、花瓶の前に立つ。光の柱に囲まれた萌黄色の蔓薔薇は生き生きとしているように見受けられた。

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