2016年11月19日

たなぼた王子の恋わずらい06


 彼の視線の先には、蒼い髪の少女のみ。アーウェルはカトリオーナしか見ていない。カトリオーナもまたそうだった。

(ああ、やっぱり素敵……!)

 リルの結婚式で見かけたときのアーウェルはどちらかというとラフな恰好だった。招待状に気楽な恰好で来るようにとドレスコードがなされていたからだ。
 だからカトリオーナはアーウェルの王子としての正装を初めて目にした。
 基調は清潔感のある白。裾や襟もとには緻密な金刺繍が施してあり、ボタンは彼の髪の色と同じ鮮やかな赤だ。その姿にすっかり魅了されていたせいで、ずいぶんと長いあいだ見つめ合っていたことを知らなかった。これは後から母に聞いた話だ。
 コホン、と誰かの小さな咳払いが聞こえた。ルアンブル国の侍従だった。

「このたびは遠路はるばるご苦労様でした。トランバーズ伯爵におかれましては――」

 アーウェルはロランに社交辞令的な挨拶をした。

(声も、やっぱり素敵……)

 恋するカトリオーナには、アーウェルのなにもかもが輝いて見えた。


 国王と王子への謁見を終えたカトリオーナたちは湯浴みを済ませたあと談話室でくつろいでいた。そこへルアンブルの侍従がやってきた。謁見のときにも居合わせた侍従だ。

「カトリオーナ・マイアー様。アーウェル殿下がお呼びです」

 すかさずロランが侍従に尋ねる。

「え、ちょっと。呼ばれているのはカトリオーナだけ?」
「左様でございます。お支度が整いましたらお呼びくださいませ。部屋の外でお待ちしております」

 侍従が部屋を出て行くなりロランは憤然とソファから立ち上がった。

「やっぱり! アーウェル殿下はカトリオーナに気があるんだ」
「まあ、よろしいではないですか。この子も嬉しそうにしていることですし。ねえ、カトリオーナ。殿下に粗相のないようにね。なにをされても決して拒んではだめよ」

 立ち上がって息巻くロランとは対照的に彼の妻イザベラは落ち着いたようすでソファに腰掛けたままワインをあおっている。

「イザベラ! きみはいったいなにを言ってるんだ! カトリオーナ、いやなら拒んでいいんだからね!」
「は、はい……」

 カトリオーナはふたりが何のことを言っているのかまったくわからず、首を傾げるばかりだった。

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posted by 熊野まゆ at 08:07| たなぼた王子の恋わずらい《完結》

2016年11月20日

たなぼた王子の恋わずらい07


 談話室と続き間になっている控えの間でナイトドレスに召し替えたカトリオーナは侍従の案内で城の廊下を歩いた。

(……ずいぶんと遠くまで来てしまったけれど)

 いま歩いているのはルアンブル国でも限られた者――王族しか立ち入ることができない場所だと思われる。先ほどからすれ違うのは衛兵ばかりだ。

「――アーウェル殿下。カトリオーナ様をお連れしました」

 観音開きの大きな扉の前で侍従が言った。中からはすぐに「入れ」と入室を許可する声が聞こえた。
 カトリオーナは「失礼いたします」と小さな声で言いながら中へ入る。そんな虫の鳴くような声しかだせないのは、萎縮してしまっているからだ。

(ここって……アーウェル殿下の、寝室?)

 部屋の中は広く、キングサイズの天蓋つきベッドが置いてあった。ほかの家具や調度品にも、随所に王家の紋章が彫り込まれている。
 その広い部屋の中央にアーウェルはいた。

「長旅で疲れているところに呼び出してすまない」
「いいえ、とんでもございません。お目見えすることができて光栄です」

 レディのお辞儀をしたあと、なかなか頭を上げることができなかった。まさか王子の寝室に案内されるとは思いがけず、よけいに緊張する。

「……こちらへ。夜風が清々しい」

 テラスに出るよう促された。侍従がテラスへの扉を開ける。

「おまえは下がっていい」
「はい」

 アーウェルが侍従を下がらせる。その瞬間、カトリオーナはいっそう脈拍を早くさせた。

(ふたりきりに、なっちゃった……)

 アーウェルはテラスの柵に両手をついて外を眺めている。
 お互いに無言だった。吹き抜ける夜風がアーウェルの赤い髪を揺らす。いまの彼は謁見のときよりも幾分か装飾の少ないジャケットとトラウザーズを身につけている。

(そうだ、まずは謝らなくちゃ)

 カトリオーナは半歩だけ踏み出してアーウェルに近づいた。それでもまだ彼の顔を見るまでには至らない距離がある。アーウェルは外ばかり見ている。

「先日は、その……本当に申し訳ございませんでした」
「……なんのことかな」

 アーウェルが振り返る。叔母の屋敷で彼の湯浴みを覗いてしまったことをアーウェルはとくに気にしていないようすだ。それに彼の口調が柔らかくなったような気がする。ふたりきりだからだろうか。年齢相応の話し方に思える。

「あのっ、私……あの日から」

 彼に真っ直ぐに見つめられ、頭の中が混乱する。言いたいことがまとまらない。

「殿下の下半身が忘れられなくて――」

 アーウェルは目を丸くした。カトリオーナはバッと勢いよく両手で自身の口を押さえた。

「いっ、いやだ、私……! あの、違うんです。殿下のその燃えるような髪の色とか、透き通った碧い瞳もすごく印象深くて」

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posted by 熊野まゆ at 07:04| たなぼた王子の恋わずらい《完結》

2016年11月26日

たなぼた王子の恋わずらい08


 視線をさまよわせながらカトリオーナは話を続ける。

「で、でも……男のひとの……ソレ、を見たのは初めてで……。だから、ええと」

 アーウェルの視線を感じる。目を見て話をしなければ失礼だ。カトリオーナは彼の碧い瞳を見据える。こっそりと深呼吸をして息を整えた。

「殿下にお会いしたかったです。あの日からずっと」

 アーウェルの唇がピクンと動く。

「俺も――」

 彼の言葉は最後まで聞けなかった。
 閃光が音もなくふたりを照らす。直後、どこからともなくドォンッと轟音が響いた。

「ふゎっ!?」

 カトリオーナは大きな音に驚きあわてふためく。よろけた彼女をアーウェルは力強く抱き寄せた。

「……っ!」

 美貌の王子様の向こう側に打ち上がる花火はもはや脇役でしかない。カトリオーナの視界のほとんどはアーウェルが占めている。
 花火はさながらアーウェルの後光だった。彼の手がカトリオーナの頬に添う。少し冷たい。

「あまり顔色がよくないね。長旅で疲れた?」

 花火は依然として連続して打ち上がり闇夜を明るくする。相変わらずお腹の底に響く轟音が続いているけれど、先ほどよりも近くにアーウェルの顔があるので会話は成り立つ。

「い、いえ……。その、殿下にお会い出来るのが楽しみで、あまり眠れなくて……」
「それは、嬉しいかぎりだ。ゆっくりと寝かせてあげたいところだが――」

 アーウェルが目を細める。哀愁に満ちた表情になってしまった理由は、考えてもわからない。

「そうだな……ひとまず横になるといい。……おいで」

 手を引かれ、部屋の中へ戻る。握られているところがやけに熱い。

「あ、あの……でも」

 王子様のベッドで横になるなど畏れ多いことこの上ない。てっきり自分だけがベッドに寝かされるものだと思っていたのだが――。

「……っひゃ!」

 勢いよくベッドに背を張り付ける。みずからそうしたのではない。アーウェルに押し倒されたのだ。
 花火はいまもなお打ち上げられている。テラスから差し込む閃光が、パッ、パッと不規則にアーウェルの顔を照らし出す。彼はごく真面目な顔つきだった。からかったり、冗談半分でカトリオーナを組み敷いているのではないのだとわかる。
 このままでは唇が触れ合ってしまう。
 そう考えた刹那、唇にもたらされたのは温かく柔らかな感触だった。
 驚きで目を閉じることすらしていなかった。もとより唇同士のキスは初めてなので、目を閉じなければいけないのだということがはなから頭にない。
 しかし、必然的に目を閉じることになった。
 口づけはしだいに激しさを増していき、目を開けていられなくなる。

(ど、どうしてこんなこと! ……でも)

 彼の舌が口の中に入り込んできても、少しも不快ではなかった。なぶられ、吸い上げられてぴちゃぴちゃと水音が立つ。なんだか恥ずかしいけれど、やめて欲しくないと思ってしまう。

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posted by 熊野まゆ at 08:17| たなぼた王子の恋わずらい《完結》

たなぼた王子の恋わずらい09


 名残惜しそうにアーウェルの唇が遠のく。

「カトリオーナ」
「は……っ、い」

 面と向かって名前を呼ばれなくてよかったと思った。彼の顔はいま首のあたりにある。甘さを帯びたかすれ声で名を呼ばれ、ありえないくらい顔が熱い。きっと真っ赤になっている。そんな顔を真正面から見られていたら、もう本当に見るも無残な顔色になったに違いない。

「……きみのことが知りたい」

 ポツリと言葉をつむぎ、アーウェルはカトリオーナの首すじにキスを落とす。
 カトリオーナは小さく「んっ」と声を漏らした。

(私のことを……? なにから話せばいいのかしら)

 手始めに趣味でも語るべきか。いや、自分のことよりもまず彼のことを知りたい。その気持ちを素直に言葉にする。

「私も、殿下のことが知りたいです」

 アーウェルの体が小刻みに一回だけ揺れた。なにかに驚いたような、そんな反応だった。

「……っ、ぇ?」

 会話が始まるかと思いきやそうではなく、アーウェルはカトリオーナのドレスを乱し始めた。

「ひゃ、ぁ……っ! で、殿下っ?」
「そんな他人行儀な呼び方はいやだ。……名前で呼んで」
「……っ! アーウェル、さま……ぁっ!」

 カトリオーナはふと思い至る。互いのことを知るというのは、もしや――。

「ぁ、アーウェルさま、私……」

 なにをどう伝えればよいのだろう。あれこれと考えているうちに藍色のナイトドレスと体のあいだにはどんどん隙間が生まれていく。無防備になっていく。
 どうしようもない焦燥感ばかりが募る。メイド以外に肌を見られたことなんてない。異性になど晒したことがない。
 アーウェルは緩慢に、しかし迷いなくカトリオーナからドレスを剥ぎ取り、コルセットをゆるめた。

「ぁ……」

 残すところはとうとうシュミーズとドロワーズだけになった。アーウェルは無垢な乙女の双丘をシュミーズごとわしづかみにする。

「……っ!!」

 カトリオーナはスッと短く息を吸い目を見開いた。アーウェルはカトリオーナのふくらみを時計回りにグルグルと揉んでいる。

(なんだか変な感じ……)

 恥ずかしいほうが先に立つからか、不思議な心地だった。アーウェルは胸を揉むことで何を思うのだろう、とそんなことばかりを考えていた。

「柔らかくて、温かい」

 そんなとき、ちょうど感想のような言葉をつむがれて妙に納得してしまう。

(これ……楽しいのかしら)

 ふとアーウェルがいるほうに顔を向けた。すると彼と至近距離で目が合った。

「……!」

 間近で見る、恍惚としたアーウェルの顔は艶っぽい。下半身のよくわからないところがドクンと跳ね上がる。それを皮切りに、胸を揉む彼の手が急に存在感を増した。

「ん、ぅ」

 アーウェルの指がふくらみのいただきをかすめると、いままでに経験したことのない甘い疼きが全身をひた走った。

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posted by 熊野まゆ at 08:19| たなぼた王子の恋わずらい《完結》

2016年11月27日

たなぼた王子の恋わずらい10


 自然と息が弾んでくる。揉みまわすばかりでなく乳房のいただきに触れて欲しいと思ってしまう。

「ふっ……」

 喘ぎを含んだカトリオーナの息がアーウェルの首すじにかかると、彼の手指はようやくふくらみの尖った部分へと向かった。
 そこに触れて欲しいと思っていたのに、いざそうされると戸惑いがでてくる。アーウェルはシュミーズごしにカリカリと乳頭を引っかいている。

「ん……んっ。……ふ、ぁっ!」

 押しなぶる動きも加わって、この行為が快感を得るものなのだと身も心も認識する。テラスの夜風で少なからず冷えていた体が急激にほてり始めた。心地よい焦燥感が全身を駆け巡る。
 シュミーズの生地と乳頭がこすれる感触を気持ちがいいと思ったことはいままでになかった。それだけでも、とてつもなくよかったはずなのに――。

(アーウェルさまの、指……)

 こういうことを貪欲というのだろう。彼の指先がじかに触れるのを待ち望んでしまっている。

「ンンッ……!」

 カトリオーナが大きく身じろぎをする。その反応を合図と捉えたアーウェルは彼女のシュミーズを両手でいっきに肩からずり落とした。そのままドロワーズも一緒くたに引き下げてしまう。

「あ……」

 一糸まとわぬ生まれたままの姿になる。

(じかに触れて欲しいだなんて)

 大それたことを考えていたことに気がつく。アーウェルの視線が体の隅々にまで走るのを感じて羞恥の熱が込み上げてきた。その熱はいったいどこからやってきてどこへ向かうのか、あてどなく際限なくふくらんでいく。
 カトリオーナは両腕で自身を覆い隠していた。無意識のことだ。

「俺はきみのことを知りたいと言ったはずだよ」

 耳のすぐそばで聞こえたのは極めて低い声だった。カトリオーナの体がピクッと打ち震える。

「――だから隠さないで。教えて」

 穏やかな声音とは裏腹に胸もとをこじ開けようとするアーウェルの両手は強引だ。
 彼に自分のことを知ってもらいたいのには違いないのだが、こういう形で知られるのは恥ずかしくてたまらない。それを素直に伝えるべきかと悩んでいるあいだに胸をあらわにされてしまった。
 さいわい先ほどのように体を凝視されてはいない。ただ、首すじに這う生温かい舌をくすぐったく感じた。

「ぁ……っ、んぁっ!」

 アーウェルはカトリオーナの肩口に顔をうずめたまま執拗に彼女の乳嘴を指で弾く。左右どちらのいただきも平等にそうされている。彼の指先は熱い。触れられるたびにそれを感じる。

「ひゃっ!? ぁ、あ」

 なぶるだけでなく押し込めたり引っ張ったりとせわしなく指が薄桃色の突起をいたぶりだす。下半身の疼きがいっそう顕著になってきた。これはいったい何なのだろう。初めてのことばかりで頭がうまく働かない。

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posted by 熊野まゆ at 08:45| たなぼた王子の恋わずらい《完結》


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