2016年12月30日

伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 第一章11


「ん、ふっ」

 こらえきれず声が漏れる。下半身に至っては未だかつてない状態だった。なにかが身の内からあふれてきている。

(わ、私……)

 まさか本当に彼の言う通りなのだろうか。羽根で胸をなぶられ悦んでいるのだとは認めたくなかった。エリスはかたくなに声を抑えた。決して漏れ出てしまわぬよう、唇をぎゅうっと引き結ぶ。

「……顔を上げろ」

 ふたたび首を横に何度も振る。するとあごをつかまれ無理やり上を向かされた。
 目に涙をたくわえているのを知られたくなかった。いろんな感情がないまぜになって涙がにじんできているのだが、その最たるは悔しさからだ。
 エリスは眉根を寄せてジェラルドをにらみつける。いっぽう彼のほうは笑うでも怒るでもなかった。無表情で、なにを考えているのかわからない。
 ジェラルドはなにも言わずにエリスの拘束を解く。どういうつもりで彼がそうしたのかわからなかったが、これで終わりなのだと思った。
 乱れた服を整えようとしていると、その手首をつかまれた。

「――な」

 力強く引っ張られ、無理に立たされる。エリスはよろけながらジェラルドに従って歩いた。彼の手を振り払おうと力を込めたがまったく敵わなかった。
 着いた先は、そう遠くない場所。

「……咥えろ。溜まってるんだ」

 ジェラルドはトラウザーズの前を開いて陽根をさらし、診察台に浅く腰掛けている。
 エリスは言葉を失った。足に力が入らなくなってひざまずく。するとよけいに彼のそれとの距離が縮まってしまった。

「……っ、や」

 嫌です、と言いたいのに涙ぐんでいるせいで言葉にならない。しかしこちらの意図はじゅうぶん伝わったらしい。

「主人《あるじ》の言うことが聞けないのか? きみは仕事熱心だと思っていたが、俺の見込み違いだったようだ」

 その言葉を聞くなり頭に血が上った。悔しさが明確な憤りに変わる。
 エリスはすうっと大きく息を吸い込み、その直立に手を伸ばした。根もとをつかんで口を運ぶ。舌に触れるとすぐさま妙な味がした。苦い。決して美味しいものではない。

(……どうすればいいんだろう)

 咥えたものの、これの慰め方など知らない。医学書には載っていなかった。
 戸惑っているのが知れたのか、ジェラルドが指示を出してくる。

「もっと奥まで咥えて顔を前後に動かせ」
「ん、むっ」

 後頭部をつかまれて前へ動かされる。一瞬、吐き気に襲われたが何とかもちこたえた。

(仕事、なんだから)

 無理やり自分に言い聞かせて彼の指示通りに動く。

「舌も使うんだ。尖端を舐めろ」
「ン……ッ」

 泣いていたせいもあって息苦しい。それでも、ただひたすら顔を動かしと舌を這わせる。感情はもはや存在しない。なにかを思っていたらこんなことはできない。

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posted by 熊野まゆ at 06:40| 伯爵は肉欲旺盛なお医者さま《完結》

2016年12月31日

伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 第一章12


「……そう。なかなか上手いじゃないか」

 褒められてもまったく嬉しくなかった。それどころか、押し殺していた憤りが瞬時にふくれ上がった。
 エリスは視線だけを上に向けた。好きこのんでこんなことをしているのではないのだと、目で訴えかける。
 エリスとジェラルドの目がピタリと合う。

「――っ」

 ジェラルドが小さくうめいた。
 口の中には初めに感じたのとは比べものにならないほどの苦味が広がった。精液とはこんなにも不味いものなのか。
 口から陰茎が抜ける。しかしいまだに口の中は精液でいっぱいだ。

「……飲み込め」

 あごをつかまれて押し上げられる。エリスの喉がゴクリと鳴り、それから咳き込んだ。
 カーテンの隙間から診察室へ長く差し込むオレンジ色の西日が、ジェラルドの嘲笑をいっそう不敵なものとして彩っていた。


 その日、エリスは早々に宿舎の自室のベッドに潜り込んだ。

(テストに合格できなかった。それに、あんなこと……)

 そういうことをするためだけの役どころだなんて嫌だ。それを仕事にしている人を蔑視しているわけではない。ただ――必死に医学書を読み漁り、いつか彼の役に立ちたいと願って寝る間を惜しんで秘かに勉学に勤しんでいた結果がこうなのだとうのが辛く悔しかった。

(もう一度テストをしてもらえないか頼んでみよう。ご主人様に頼み事をするなんて何だか癪だけど……)

 エリスはバッとベッドから起き上がり、卓上ランプを灯して医学書とノートを広げた。

(へこたれてる暇があったら知識を増やそう)

 ペンを手に取り、読みかけだった医学書の文字を追う。
 集中し始めたときだった。コンコンというノック音がどこからともなく聞こえた。しかし扉のほうからではなかったので、空耳だろうと思いふたたび医学書に目を向けた。
 コンコンコン。今度は明確に、それも三回もノックされた。どうやら窓のほうだ。

(誰かが締め出されちゃったのかしら?)

 部屋の鍵を落とした同僚の誰かかもしれないと考えてエリスはすぐに窓のほうへ向かう。カーテンを開けたエリスは目を見張った。

「――なっ」
『開けろ』

 彼の息で窓ガラスが白く曇った。ネジ式の鍵をくるくると左方向にまわして窓を開けると、冷たい空気がいっきに部屋の中に流れ込んできた。そしてまたジェラルドも、さも当然のごとく窓から部屋の中へ入ってくる。

「な、何なんですか?」
「ずいぶんな言いようだな。わざわざ持ってきてやったっていうのに」
「持ってきた……って」

 彼は片手に紙袋を提げていた。袋の中身はまったくもって想像がつかない。

「なにをですか?」

 ジェラルドはエリスの問いには答えず紙袋の中身を取り出した。出てきたのは服だった。

「着てみろ」
「は? あの、なぜ」

 折りたたまれた状態ではその紺色の服が何なのかわからなかった。ジェラルドが「ちっ」と舌打ちをする。

「寄越せ」

 渡されたばかりの服を奪い取られ、それだけでなく寝間着のボタンを外される。

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posted by 熊野まゆ at 07:03| 伯爵は肉欲旺盛なお医者さま《完結》

2017年01月01日

伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 第一章13


「色気のかけらもないな、この寝間着は」
「……っ、はぁ!?」

 なぜ文句を言われなければならないのだ。そもそもなぜ寝間着を脱がされようとしているのだろう。
 エリスは彼が外したボタンをことごとく上から順に留めていった。ジェラルドはふたたび盛大に舌打ちをし、エリスの体を強引にベッドへ押し倒して馬乗りになった。

「いいから着替えろ」
「だ、だからなぜ……っ、や」

 両手を頭上でひとまとめにされてしまい、これではボタンを掛け直すことができない。ジェラルドはむしり取る勢いで寝間着のボタンを一番下まで外した。

「ちょ、ゃっ」

 丈の長い寝間着の袖が腕から抜けていく。シュミーズとドロワーズだけという何とも心許ない姿になってしまった。

「………」

 ジェラルドの視線が胸もとに注がれているのはきっと気のせいではない。シュミーズごしに内側の突起をカリカリと引っかかれる。

「わっ、わかりました! 着ます、自分でっ」

 これ以上、妙なことをされる前に素直に着替えよう。エリスはジェラルドの手を払いのけて起き上がり紺色の服を手に取った。彼には背を向けて服を着る。

「これ……は」

 襟と袖口、そしてスカートの裾には真っ白なレースが精緻に施されていた。
 ジェラルドはなにも語らずエリスに仕上げをする。服のレースと揃いのナースキャップを彼女の頭にそっと飾った。

「テストは不合格だったのでは」
「……間違えたら仕置きする、としか俺は言っていない。あの一問をきみが解けないことは想定の範囲内だった。だからテストは合格だ」
「そういうことはあの場ですぐ聞きたかったです!」
「言わなかったか? ……明日からはそれを着て仕事に勤しめ」
「……はい」

 エリスはあらためて自身の看護服を見つめた。この部屋に姿見は置いていないので、窓ガラスに映る姿を他人事のように眺める。

(看護助手が、できる……!)

 これほどまでに心が弾んだことがいままでにあっただろうか。自分に務まるだろうかと不安はあるが、それでもやはり嬉しい。

(あ、そうだ……)

 新しい服をあてがわれたのだ。礼を述べねばと思い口を開きかける。ジェラルドはエリスをしげしげと見つめていた。

「馬子にも衣装だな」

 礼を、述べようとしていた。しかし彼のその言葉でいっきにその気が失せる。

「みろ、バストは厚めに誂えてやったんだ。きみの板のような乳が目立たないように」
「――っっ」

 余計なお世話だ! と言いたいところだが、正直なところ大変ありがたい。しかし素直に礼を言う気にはやはりなれない。こうなると押し黙るしかなかった。
 エリスを眺めるのには飽きたらしくジェラルドは部屋の中を見まわしていた。書き物机に彼の目が留まる。

「不合格だと思っていたのにまだ勉学に励んでいたのか」
「……再テストを申し入れようかと考えていました」
「ふうん。きみは意外と努力家だな」
「それはどうも」

 意外と、はよけいだと心のなかで文句を言いながらエリスは自身の真新しい看護服を内心ほほえましく見下ろした。

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posted by 熊野まゆ at 05:41| 伯爵は肉欲旺盛なお医者さま《完結》

2017年01月02日

伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 第一章14


 ジェラルドの診察を手伝い始めると、仕事はそれまでと打って変わってとりわけ忙しくなった。まだ慣れない部分も多いというのも一因だ。
 しかし意外なことに、ジェラルドは医療に関しては懇切丁寧に指導してくれた。

(間違いがあっては困るからだろうけど)

 医者としての彼の評判が名高いのもうなずける。人間性はさておき、医者としては看護助手の指導を含め優秀だというわけだ。

(癪だけど……そこは認めざるを得ない)

 一日の診察を終えてエリスは後片付けをしていた。ジェラルドはいまごろ馬車の中だろう。どこかの貴族が催す夜会に出席するのだと言っていた。
 ふと診察台に目がいく。

(あのあとシーツは取り替えたけど、やっぱりここであんなこと……不謹慎だわ)

 患者が横になるための白い台を見つめる。頬に熱がこもってくる。

(――って、違う! 場所の問題じゃない。あれをすること自体が大問題なんだからっ)

 いくら「仕事だ」と言われても次は絶対に断ろう、と心に決めてエリスは診察室の後片付けを終えた。


 診察室での手伝いを始めて一週間ほどが経った、休診日のことだった。エリスはジェラルドの執務室にいた。執務机の前の椅子に座って書き物をする彼の肩を揉まされているところだ。
 ここのところ四六時中、彼と一緒にいるような気がする。ジェラルドは屋敷にいるあいだはなにかとエリスに用事を言いつけてくるようになった。初めのころと比べるとずいぶんな変わりようだ。

「――肩はもういい。次はコッチ」
「……っ!」

 トラウザーズの上からでも彼のそこが張り詰めているのがわかった。

「ほら、いつものように貧相な胸も晒せ」
「……イヤ、です」
「まったく、きみは成長しないな。いつまでも俺に脱がされたいのか」
「そっ、そういうことじゃありません」
「こっちに来い」

 ジェラルドは椅子に腰掛けたままエリスの腕をつかんで引っ張り、椅子の正面へまわり込ませた。腕をつかんだままメイド服のリボンを解く。今日は休診日なのでメイド服だった。

「や、やめ……っ」

 外されてしまったボタンは片手ではなかなか留め直すことができない。
 いつかの決意は虚しく、結局こういう「仕事」を強いられているのだ。
 ジェラルドは精神を逆撫でするのが恐ろしく上手い。どれだけ「嫌だ」と言っても、彼の口車に乗せられてこういうことをさせられる。

「きみに仕事を振り始めてから時間に余裕がでてきた。こういうことをする余裕が。だからいまこうなっているのはきみのせいだ」
「ん、んッ――」

 控えめな胸を晒し、小さな口いっぱいに陽根を頬張りひざまずくエリスの頭をジェラルドは片手でぎゅうっと力強く押さえつけた。

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posted by 熊野まゆ at 06:52| 伯爵は肉欲旺盛なお医者さま《完結》

2017年01月03日

伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 第一章15


「いやぁ、こんなに可愛い看護助手がいるなんてなぁ。おじさんまた来ちゃうよ!」

 看護助手を始めて一ヶ月ほどが経ったある日、腰を痛めたという中年の患者がエリスに言った。

「そんな、ダメですよー。どうかお大事になさってください」

 男性は年甲斐もなく「はーい」と間延びした返事をする。エリスは彼に笑顔で手を振り診察室から送り出した。その様子をジェラルドはじいっと見つめている。

「……今夜、寝室に来い」
「はい。ええと、次は――」

 酌でもさせられるのだろうと思いエリスは深く考えずに次の患者を呼んだ。


 その夜、ジェラルドの寝室を訪ねると彼は既に酒を飲んでいた。ワインボトルにはもともとどれくらいの量が入っていたのかわからないが、もうほとんど空だ。
 まだ夜はそれほど更けていない。一体いつから飲み始めたのだろう。

「御用はなんでしょうか」

 ワインボトルはほとんど空だから、酌のために呼ばれたのではないだろう。

(また肩揉みかしら……)

 彼に要求されることで思いつくのはもう一つあるけれど、それはあまり考えたくない。

「夜の寝室ですることは一つしかないだろう」

 やけに平坦な声音だった。ジェラルドはいつだってそんな調子の物言いをするが、今夜はよけいに棘《とげ》が感じられる。彼がいまは執務服ではなくナイトガウンを着ているというのがいやに生々しい。
 ――いつもと、違う。
 ソファに腰掛けて足を組むジェラルドの翡翠色の瞳がぎらぎらと光っているような錯覚に陥った。酒が入っているせいか彼の目は据わっている。なんだか怖い。

「……申し訳ございません、急用を思い出しました」

 本能が「逃げろ」と言っている。エリスはジェラルドに背を向けてドアノブをつかんだ。
 ところが開きかけた扉はそれ以上の力で内側から押し閉められた。

「――白々しい嘘をつくな」

 ガチャンッと性急に内鍵を掛けたのはジェラルドだ。いつの間にか彼はエリスのすぐ後ろに立っていた。驚きとそれから恐怖をその顔ににじませたエリスの腕をジェラルドがつかんで引きずる。

「なん、ですか」

 ベッドへ向かっているのがわかった。頭の中ではひっきりなしに警鐘が鳴っている。そこへ行ってはならない、と。

「やっ……!」

 彼の手を振りほどいて逃げるつもりだった。これ以上はベッドの近くには行くまいとして歩くことを頑なに拒む。
 するとジェラルドは「ちっ」とわざとらしく舌打ちをしてエリスを抱え上げた。彼女の靴を強引に脱がせて、放り投げる勢いでベッドに寝かせて馬乗りになる。

「なにするんですかっ」
「きみは患者にはずいぶんと……無駄に愛想がいいんだな」

 ジェラルドが膝に乗っているせいで身動きが取れない。このまま話を続けるしかない。

「……無駄ってことはないです。笑顔が病に良いということは医師連盟も認めるところでしょう?」
 ジェラルドは皮肉めいた笑みを浮かべる。
「はっ、ますます生意気を言うようになったな、この口は」
「むっ」

 唇の両端を指でつかまれ中央に寄せられた。タコのようになった口をジェラルドはじいっと凝視した。

「……っ!?」

 彼がなにを思ったのか、そしていまなにをされているのかすぐにはわからなかった。急に視界が暗くなったかと思うと唇に柔らかいなにかが当たった。
 ジェラルドの唇だと認識するなり両手が彼を押し退けようと暴れ出す。

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posted by 熊野まゆ at 07:21| 伯爵は肉欲旺盛なお医者さま《完結》


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