2017年05月28日

秘されし、その甘やかな救済 第二章12


「ゃっ、あぁ……!」

 ラティーシャの両手が所在なげに空を切る。

(こんな……)

 触れ合う、というのはこういうことなのか。
 ――なんてふしだらなの!
 頭の中で、されるがままではいけない、と誰かが警告してくる。しかしそのいっぽうで、確かな快感を覚えて腰がひとりでに揺れてしまう。
 ラティーシャの豊かなふくらみがふにゃふにゃとなまめかしく形を変えるさまを見てマティアスは深く息を吐く。

「きみの薄桃色はじつに蠱惑的だ。食んでもいいか?」
「な……っ、ん、ん……!」

 ラティーシャは初め、何のことを言われているのかわからなかったが、マティアスの顔がしだいに胸へと近づいてくることでようやく彼の質問を理解した。

「だ、だめです! そんな――」

 あわててそう言ったときにはすでにマティアスが口を開けていた。赤い舌が顔を出し、ふくらみの色づいた先端へ伸びていく。つややかな金の髪がふわりと揺れ、それと同時に舌が乳頭をチロリと控えめに舐め上げる。

「ぁあ……っ!」

 口から出た突拍子もない声に自分自身が驚いているあいだにマティアスがまた薄桃色のつぼみを下から上へと舌で撫でる。

「はっ、ぁぅっ」

 ラティーシャはたまらなくなって胸もとを手で覆い隠そうとした。しかしマティアスがそれを許すはずもなく、両手首をつかまれて身動きがとれなくなる。

「俺が舌で舐め上げると、きみのココは嬉しそうに揺れてさらに身を硬くする。大いに悦んでいるようだ」
「……っそんな、私……! んっ、んんっ!」

 ――悦んでなんかいない。
そう弁明したいけれど、果たして本当にそうなのかと疑わしい。彼の舌がそこに触れるたびにあらぬ場所が疼くのだ。この反応は本当に『悦んでいない』のか、経験がないのでわからない。

「感じることは罪ではないよ、ラティーシャ」

 濡れた薄桃色に息を吹きかけるようにマティアスはささやいた。そのまま言葉を続ける。

「乙女でなくとも巫女にはなれる」

 そう言うなりマティアスは口を大きく開けて、硬くしこった乳首にかぶりつく。

「あ、ぁっ!」

 ――乙女でなくても、巫女になれる? では、巫女とはいったいなんなの。私が目指しているものは、いったいなんなの。
 頭の中がひどく混乱している。巫女になって清らかに、平穏に日々を送ることが目標であり唯一の救いだと思っていた。それなのに、マティアスは反対のことばかりささやいてくる。

「ふぁあっ、あっ」

 もうごまかしようがない。乳頭をなぶる舌は明確な快感をもたらしている。気持ちがいい。下半身の奥底は、ふつふつとたぎるように熱く脈づいている――。

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posted by 熊野まゆ at 05:25| 秘されし、その甘やかな救済《完結》

2017年06月03日

秘されし、その甘やかな救済 第三章01


 機は熟し、その日がやってきた。

(私……こんな状態で昇格試験を受けてもいいの?)

 心の中には迷いしかなかった。公爵邸での出来事を思い出し、奉仕中にもかかわらず頬が熱くなる。ラティーシャは神殿の奥の間へと歩いていた。

「緊張してるの? ラティーシャ」
「は、はい……」

 前を行くのは母親違いの姉であるイザベラ・カトラーだ。彼女は先輩の巫女でもある。イザベラは黄みを帯びた肌に黒い髪の毛、とラティーシャとはまったく異なる風貌である。

「きっと大丈夫よ。さあ、こっちよ」

 イザベラに先導され、ラティーシャは神殿の奥へ奥へと進む。
 巫女見習いになって三年が経つと、巫女になるための昇格試験を誰もが受けることができる。どんな試験が待ち受けているのか、事前には知らされないのでわからない。

(いまのところ、巫女の昇格試験に落ちた人はいないらしいけれど)

 しかしそれはみなが清く正しく敬虔に神を信仰していたからに違いない。

(それなのに私は……)

 マティアスに秘めたところをさらし、あまつさえ舌で舐めしゃぶられてしまった。あのあとラティーシャはあまりの羞恥と快感で気を失ってしまい、それ以来マティアスには性的なことをされていない。「また失神されてはたまらない、きみの体が第一だ」と言っていた。
 ただ一度とはいえ、浴室でのことも含めふしだらなことをした事実は変わらない。その行為を後悔しているわけではないけれど、こんな自分は巫女にはふさわしくないのではないかと思うのだ。
 ラティーシャは悶々としたまま、神殿のもっとも奥まったところにある祈りの間に着いた。
 そこはほかとは一線を画していた。神殿内はそもそもそうだが、ここはよりいっそう天井が高い。複雑に組み合わされた扇形のヴォールトが垂直方向の大空間を実現している。
複数の丸い天窓から一直線に差し込む光は柱のようにそれを――花瓶に活けられた薔薇を囲んでいる。

「あれは……蔓薔薇、ですか?」
「そうよ。あの薔薇に触れれば、お目にかかれるの。私たちの神様に」

 イザベラの言葉を聞いてラティーシャは首を傾げる。

「私はいまから昇格試験を受けるのですよね?」
「ええ、そうね。試験……というほどのものではないわ。あなたなら大丈夫。さあ、触れてみて。その蔓薔薇に」

 イザベラはラティーシャではなくなにもないところに向かってウィンクをした。その行動の意味がわからず、ラティーシャはますます首をひねる。
 わけがわからないままおずおずと歩みを進め、花瓶の前に立つ。光の柱に囲まれた萌黄色の蔓薔薇は生き生きとしているように見受けられた。

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posted by 熊野まゆ at 05:58| 秘されし、その甘やかな救済《完結》

2017年06月04日

秘されし、その甘やかな救済 第三章02


「どこに触れればよいのですか?」
「どこでもいいわよ。しいて言えば花びらかしら。茎は棘があって痛いから」
「わかりました」

 あまり強く触れては花びらが落ちてしまうので、慎重に、そっと花弁に手を伸ばす。指先が、ほんの少しだが花びらに触れた、そのとき。

「――!」

 どこからともなく強い風が吹いた。ラティーシャの長い銀髪をひらひらと揺らす。巻き起こった強風に驚いてラティーシャはとっさに目を閉じた。風がおさまったころに、ゆっくりと目を開ける。
 目の前に、顔があった。

「やっほー! 初めまして、僕アドニス。神様やってまーす」
「――!!?」

 ラティーシャはドスンと大きな音を立てて尻もちをつく。大理石の床はお尻に優しくない。地味に痛い。
 目を白黒させながら、ラティーシャは『神』を名乗るその少年を見上げた。萌黄色の髪と瞳の美しい少年はいたずらが成功したときのようにニヤニヤと顔をほころばせている。

「もう、アドニス様。そうやって新人の巫女を驚かせるのはおやめくださいな。みんな尻もちをついて、しばらくお尻が痛くなってしまうんですから」
「ごめんごめん、つい楽しくて。ほかに娯楽もないからさぁ」

 萌黄色の髪の少年――アドニスは小首を傾げてポリポリと頬をかいている。

「あ、あの……お姉さま。これはいったいどういうことでしょうか?」

 ラティーシャはお尻に手を当てながら何とか立ち上がり、イザベラに尋ねた。

「どういうこと……と言われると説明に困るわね」

 イザベラは悩ましげにあごに手を当てる。

「その蔓薔薇に触れることでアドニス様――神様のお姿が見えるようになるの。彼の姿が見えるようになれば、晴れて巫女というわけね」

 ラティーシャはパチパチとまばたきをする。

「では、昇格試験は合格ということでしょうか?」
「そうね。アドニス様は万人拒まずだから、よほどのことがなければ大丈夫なのよね」
「ちょっとぉ、イザベラー?」

 アドニスが口を尖らせてイザベラを咎める。いっぽうのイザベラは少しだけ肩をすくめた。

「ああ、巫女の仕事の一つはアドニス様のお話し相手になってさしあげることよ。アドニス様はこの祈りの間から出ることができないの。だからいつも暇を持て余していらっしゃるのよ」
「ええっ、イザベラ! その言い方は何だかなぁ。僕が暇人みたいじゃないか」
「ふふ、申し訳ございません。口が過ぎましたわ」

イザベラはそう言ったが、悪いと思っているようではない。飄々としている。

「それじゃあ、ごゆっくり。私は先に戻ってるわね」

純白の長衣をひるがえしてイザベラが去る。残されたラティーシャはいまだに戸惑いを隠しきれない。

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posted by 熊野まゆ at 06:25| 秘されし、その甘やかな救済《完結》

2017年06月10日

秘されし、その甘やかな救済 第三章03


「さて、きみの名前を教えて?」

 アドニスはうしろで手を組んでラティーシャの顔をのぞき込んだ。彼が身に着けているのは巫女が着ているものと同じ長衣だ。しかし妙なことに、彼が腕を動かしても袖がまったく揺れない。もしかしたら彼は実体がないのかもしれない。疑問に思ったものの、それを口に出して尋ねるほど気安い関係ではない。ラティーシャはひとまず名乗ることにした。

「ラティーシャ・カトラーと申します」
「うんうん、イザベラとオズウェルの妹だね。ふーん……イザベラにはあんまり似てないね。オズウェルとは髪の色が一緒だ」

 オズウェルとは神殿長をしている兄のことだ。アドニスはオズウェルとも面識があるらしい。兄は神殿長だから、当然といえばまあそうだ。

「姉と兄とはそれぞれ母親が違うものですから。兄の髪色は父親ゆずりです。私もそうなのだと思います」
「そうなんだ? なかなか甲斐性のあるお父さんだねぇ」

 色っぽく流し目をしてアドニスが笑う。
 ラティーシャは初めて相対する『神』にどきどきと胸を鳴らしながら問う。

「あの……アドニスさま。ひとつお尋ねしてもよろしいですか」
「うん、なぁに?」

「私は、巫女とは元来清らかでなければならないものだと思っておりました。実際のところは、どうなのでしょう。巫女とはどうあるべきなのでしょうか」

 アドニスはきょとんとして目をしばたたかせた。

「うーん……。ありのままでいいんじゃないの? きみたちがどこでなにをしていても、僕は咎めたりしないよ。好きな人といちゃいちゃするのもよし、朝までお酒を飲んで楽しく過ごすのもよし。むしろいろんな経験をしてほしいな。それを僕に話して聞かせて? 僕は世界の、そこに住まう人々のいろいろなことを知りたい。きみたちと話をして、さまざまな想いの祈りを受ける。それが僕の糧なんだ」

 アドニスは快活な笑みを見せる。

「恋の相談にだって乗るよ。もちろん、秘密厳守! ラティーシャは好きな人はいるの?」

 今度はラティーシャがきょとんとする番だ。あまりに寛容な――むしろ、考えていたのとは真逆の回答に面食らう。

「すっ、好きな……人……」

 真っ先に頭の中に浮かんだのはマティアスだ。彼の笑顔、それからどうしてか指先を思い出し、頬に熱がこもる。

(私……マティアスさまのこと――)

 彼のことを想うと胸の奥が締め付けられる。どうにもいたたまれないなにかが込み上げてきて、それと同時に彼がそばにいないことを寂しく思ってしまう。
 ひとり頬を赤らめるラティーシャを見てアドニスはニイッと笑みを深めた。

「ははぁ、そのようすだと……好きな人がいるんだね? ねぇ、詳しく話を聞かせてよ」
「そ、そんな……! 神様にお話しできるようなことではありません」
「またまた、つれないなぁ。まあ、今日は初の対面だったしね。でもいずれ聞かせてね?」

 屈託のない笑顔を見せるアドニスに、ラティーシャはいまだに戸惑いを見せながらも笑い返した。

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posted by 熊野まゆ at 05:37| 秘されし、その甘やかな救済《完結》

2017年06月11日

秘されし、その甘やかな救済 第三章04


 祈りの間をあとにしたラティーシャはあれやこれやと考えを巡らせながら早歩きをしていた。向かう先はイザベラのいる巫女の控室だ。巫女見習いの控室は大部屋だが、巫女に昇格すれば個室が与えられる。

(まさか神様が実在していたなんて)

 神とは人々の憧れであり、願望の対象でもある。それがあのような――こう言っては何だが、想像していた神とはかけ離れていたせいでラティーシャはますます迷いが深くなった。これからの自分の在り方がわからない。自分自身、どうしたいのかわからない――。

(とにかく、神様のことは他言無用よね)

神の実態がああだと知れたら信仰に影響が出るかもわからないので、彼の存在は秘されるべきだとラティーシャは思った。実際、そういううわさは出回っていないし、これを知りえるのは巫女だけだ。

(でもマティアスさまは……もしかしたら神様とお会いになったことがあるのかも)

 いま思えばマティアスの発言には神の存在を匂わせるようなことがたびたびあったような気がする。麗しい青年公爵のことを思い出し、ふたたび火照り始めた頬をパン、パンッと両手で叩いて引き締めたあと、ラティーシャはイザベラの部屋の扉をノックした。

「――どうぞ」

 中からすぐに返事が聞こえた。ラティーシャは「失礼します」と言いながら茶色い木の扉を開ける。

「あら、ラティーシャ。アドニス様とのお話はもう終わったの?」
「はい、ひとまずは」
「そう。まぁ、座ったら?」

 込み入った話になると察したのか、イザベラは浮かない顔のラティーシャにソファに座るよううながした。
 二人掛け用の茶色い革張りのソファに座る。すると、イザベラがティーポットから紅茶を注いでくれた。

「ありがとうございます、お姉さま」
「いいのよ。それで、どうしたの? アドニス様が神に似つかわしくないのはわかるけど、そんなにショックだった?」

 ラティーシャはぎくりとして、隣に腰を下ろしたイザベラを見やる。

「アドニスさまのことは……そういう方なのだと思えばいいのかな、と」
「そうね、あの性格はもうどうしようもないわよね」

 クスッ、と笑ってイザベラは紅茶をすする。ソファの前のローテーブルにはあらかじめ二組のカップとティーポットが置いてあった。来客があることを――ラティーシャが来ることを予想していたのだろうか。

「食べる? おいしいわよ」

 イザベラは白い小皿に盛りつけられた小さな丸いビスケットを指でつまみ、ラティーシャの口へ運ぶ。そのまま口を開けると、ビスケットが口の中へ飛び込んできた。
 ビスケットは舌に乗ると溶け出しそうなほど軽やかでそして甘く、ほのかに花の香りがした。

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posted by 熊野まゆ at 05:34| 秘されし、その甘やかな救済《完結》


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