2018年05月19日

双鬼と紅の戯曲 第三章02



「さ、行こう」
「え? あ、あの」

 手首をつかまれ強引に立たされる。瀧は苦笑いを浮かべながらも鈴音の手を引いて桜の庭を歩いた。
 ひときわ大きな桜の木の前までくると、瀧は両手を胸の前に合わせて「申し訳ございません」と謝ったあとで鈴音に耳打ちする。

「じつは、姫さまから言いつけられておりまして……。あなたに言い寄るふりをして極夜さまを煽れ、と」
「ええっ!?」

 ふたりはごく近い距離で内緒話をする。

「どういうことですか?」
「姫さまはまだ結婚する気はないのです。それに、どうやら弟君――白夜さまをお気に召されたようで」
「そう、なのですか……」

 しかしまだ安心はできない。極夜が椿を気に入って、強引に結婚を進めてしまう可能性もある。

(だ、だからっ……! 私ったらどうしてこうなの)

 結局のところ、極夜にほかの女性と結婚してほしくないと思っている。それが、正直な気持ちなのだ。
 自分の心の狭さに愕然としていると、急に体をうしろへ引っ張られた。

「――っ、極夜さま!?」

 いつの間にそこへ来ていたのか、極夜に体を抱き込まれる恰好になっていた。
 向かいにいた瀧の顔が青ざめた。極夜はよほど恐ろしい形相をしていたのだろう。

「どど、どうぞ鈴音さんとごゆっくり! 僕の話は終わりましたから!」

 瀧はそう言い捨てて、逃げるように去っていった。

「……あの男となにを話していた?」

 低くかすれた声だった。怒気を含んでいるのがわかる。

「あの方は……椿姫さまに言われたそうなのです。私を連れ出して……その……極夜さまを煽れ――と」

 そう言ったあとで鈴音は彼のほうを振り返った。

(でも、煽るって……どういうこと?)

 鈴音は首を傾げて極夜を見上げる。すると極夜の頬がみるみるうちに赤くなっていった。

「――きゃっ!」

 甲高い声とともに、向かいの桜の木から椿姫が踊り出る。そのあとを追って白夜も姿を現し、転びそうになっていた椿の腕と腰をつかんで支えた。

「椿姫さま、それに白夜さまも……!?」

 そこでいったいなにをしていたのだろう。

「いやぁ……はは。ふたりのようすが気になっちゃって――って、ちょっと極夜!」

 極夜はきびすを返して歩き出してしまった。

「ああ、あれは……アレだね。恥ずかしくて逃げたね」

 白夜は続けて言う。

「ほら、鈴音。追いかけて!」

 鈴音はわけがわからず目を見張る。

「好きなんでしょ、極夜のこと。だったら追いかけるんだ」
「鈴音さん、頑張って!」

 今日はじめて会ったばかりの椿にまで応援されてしまった。

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posted by 熊野まゆ at 05:05| 双鬼と紅の戯曲《完結》

2018年05月20日

双鬼と紅の戯曲 第三章03


 心に秘めていたはずの想いをふたりに知られているのが恥ずかしいけれど、いまは彼らの言うことを素直に聞くべきだ。
 鈴音は大きくうなずいて歩き出す。だんだんと歩く速さが増す。でなければ彼を見失ってしまう。
 薄桃色の花が風に舞うなか、鈴音は極夜を追ってひた走った。

「――極夜さま!」

 久しぶりにこんな大声を出した。
 呼び止められた極夜が振り返る。戸惑っているような顔をしていた。
 鈴音は極夜のすぐそばまで行って、息を整えた。
 桜の花びらが強風に煽られてひらひらと舞う。
 想いを告げたら迷惑になるだとか、応えてもらえないだとか――そんなことはもう気にしない。
 ただ、伝えたい。秘めることのできないこの想いを。

「極夜さまのことが好きです。ずっとずっと……子どものときから、もう何年も……好きなんです!」

 呼吸が乱れているのは走ったせいか、あるいは気が高揚しているせいか。
 自分自身の息遣いをうっとうしく感じながらも鈴音は言葉を足そうとした。
 彼のなにが好きなのかを、伝えるために。
 しかしそれは叶わない。
 唇を、塞がれてしまったから。

「んっ……!?」

 息をするのを忘れてしまいそうになった。いや、一瞬息が止まっていたと思う。
 極夜は鈴音の唇を貪るように荒々しく何度も食んだ。そっと唇を離し、瞳を見つめたあとで鈴音の肩に顔をうずめてつぶやく。

「――俺もだ」

 それは、とても短い肯定の言葉。
 けれどそれでじゅうぶんだった。
 想いが伝わった。気持ちを返してくれた。
 瞳から涙が噴き出す。とめどなくあふれてくる。嬉し涙だ。

「好き、です……極夜さま……好き、大好き」

 彼の背に腕をまわしてぎゅうっと抱きつくと、それ以上の力で抱きしめ返してくれた。
 ああ、これは夢なのではないか。幸せすぎて、ほかのことがなにも考えられない。
 鈴音はうっとりと極夜の顔を見つめる。
 やがて極夜が歩き出した。夢見心地のまま手を引かれ、庭を抜けて離れの間に連れて行かれる。切妻屋根の、こぢんまりとした建物だ。
 彼と手をつないで歩くのは子どものとき以来だった。建物のなかへ入るとつないだ手が離れてしまったので少し寂しかった。

(どうしてここにいらしたんだろう?)

 桜庭ではなくこの離れの間にやって来た理由がわかならい。極夜はなにも言わない。
 六畳ほどの部屋にふたりして入る。

「……鈴音」

 ふすまを閉めるなりうしろから抱きすくめられた。
 極夜は鈴音に頬ずりをしてから耳もとでささやく。

「くちづけだけでは足りない」

 生温かい舌が耳たぶをねぶり、柔らかな唇が耳の厚くなっている部分を甘噛みしてくる。

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posted by 熊野まゆ at 05:46| 双鬼と紅の戯曲《完結》

2018年05月25日

双鬼と紅の戯曲 第三章04


「ん、くすぐったい……です」

 極夜は鈴音の耳たぶを舌でくすぐりながら、両手で体を撫でまわした。わき腹のあたりに手を這わせられるとよけいにくすぐったくなって、笑い出してしまいそうになる。

(くちづけだけじゃ足りない、っていうのは……)

 吸血しなければ気がおさまらないということだろうか。それにしては、極夜は耳たぶを食むばかりで血を吸おうとはしない。
 体を撫でまわしていた彼の手が、帯をゆるめにかかった。

(やっぱり、血が飲みたいのね)

 鈴音はされるがままだ。吸血されることには慣れている。彼に血を捧げるべく、日ごろから鉄分の多い食事を心がけている。
 帯が完全に解け、ストンと畳の上に落ちた。

(あ、あれっ……?)

 いつもなら帯はゆるめられるだけで、解かれはしない。
 羽織っている着物の衿合わせを襦袢ごと左右に広げられて肩から落とされれば、着物は肘のあたりまで袖を通しただけの半裸状態になる。
 乳房も、それから下半身の茂みもほとんど隠せていない。

「え――あ、あのっ!?」

 たんに吸血されるだけならここまで肌をさらす必要なんてない。なにかべつのこと――このあいだされたようなことがふたたびあるのでは、とようやく気がついた。

「足りない、と言った」

 だからいいだろう、と言わんばかりだ。極夜は鈴音の首すじをベロリと舐めあげ、豊かなふくらみをうしろからわしづかみにする。

「ぁ、っ……!」

 胸をつかまれるのははじめてではないが、とてつもない羞恥に見舞われる。頬にカッと熱がこもり、手足の先がジワリと汗ばんでくる。

「極夜、さま……っ」

 意味もなく彼の名を呼ぶことで羞恥心を紛らわそうとしていたのかもしれない。
 だが極夜は「鈴音」と呼び返してきた。よけいに恥ずかしくなって、鈴音は口もとを手で覆う。
 名前を呼び合うだけでこんなにも幸せな気持ちになれるなんて、知らなかった。涙があふれそうになる。
 極夜が大きく息を吸い込んだのがわかった。

「かぐわしい」
「……!」

 彼はどうしたのだろう。短い言葉ばかりだが、今日はいつもの倍以上に口数が多い。
 しかも、耳のすぐそばでかすれ声を出すのだ。本当にたまらない。
 極夜が首すじを舌でたどりはじめた。胸を揉む手つきも激しくなり、ときおりいただきをかすめる。

「んん、んぅ……っ」

 薄桃色の乳輪を指と指のあいだでフニフニと押されている。そこへ、首すじに牙を突き立てられた。
 もう、どこを意識すればよいのかわからなくなる。

「ふっ、う……ん、んぁ……!」

 吸血されることでいっきに恍惚境まで引き上げられる。しかし胸飾りをいじる指は緩慢で、吸血にしてもごく少量だ。

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posted by 熊野まゆ at 05:53| 双鬼と紅の戯曲《完結》

2018年05月26日

双鬼と紅の戯曲 第三章05


 じらされているのだという感覚のない鈴音はわけがわからずひたすら身もだえする。
 くねくねと体をよじる鈴音から牙を離し、極夜は両手で薄桃色をつまみ上げた。

「あぁっ!」

 思いがけず大きな声が出てあせる。
 極夜はより近くで嬌声を聞こうとしているのか鈴音の口もとに耳を寄せている。

「あ、ぁっ……やぁ、あぅっ」

 はしたない声が出るのを止められない。極夜が乳頭を指でこねくりまわすせいだ。

「硬くなってきた……」

 ぼそりと言って、極夜は親指と中指でつまんでいた硬いつぼみを人差し指で柔肉へ押し込めるようにしてつつく。

「ンンッ……!」

 鈴音は顔を上げ、しかしすぐにうなだれた。彼が自分の乳頭をつまんでいるのをまじまじと見てしまい、羞恥心が体の端々から込み上げてくる。
 もうこれ以上のことはないと思いたい。しかし、そうはならない。
 極夜は鈴音の体を抱え上げるようにして畳の上に寝かせた。
 秘めるべきところを真正面から見られることになり、ますます恥ずかしくなる。
 鈴音に馬乗りになった極夜は恍惚とした表情でふくらみをつかみなおし、その手で先端を際立たせた。そこへ、おもむろに顔を寄せる。

「――ッ!」

 彼がなにをするつもりなのか気がついた鈴音は仰向けに寝転んだまま身をくねらせたが、そうしたところでなにが変わるわけでもない。
 極夜は薄桃色の棘をペロリと一舐めする。その瞬間、甘いしびれがどこからともなく生まれて脳天へと抜けていった。

「ぁ、あっ……あぁっ」

 極夜は胸の尖りを愛でるのに夢中のようだった。舌を這わせていないほうは指で押しひねり、鈴音をいっそう喘がせる。
 彼の舌がいただきに這うたび、指で押しつぶされるたびに下半身がドクッと脈づく。これはいったいなんなのだろう。なにかおかしなことが起こっているのでは、と不安になる。

(でも……気持ちいい)

 しだいに羞恥心が抜けてきた。乳首をいじられることに慣れてきた、というのを認めてしまうのは、それはそれで恥ずかしいけれど、その通りだ。彼の愛撫を心地よく感じている。
 もっとめちゃくちゃにしてほしい、などと思ってしまって始末が悪い。
 極夜は鈴音の秘めた要望に応えるように、舌と指の動きを激しくさせた。胸飾りを口に含んで吸い上げ、もう片方のそれは指先で素早くなぶり倒す。

「んぁっ、う……あぁ、んんっ!」

 いてもたってもいられずバタバタと脚を動かすと、体をわずかに覆っているだけの着物が衣擦れの音を奏でた。それがずいぶんと卑猥なものに思えて、また官能を煽られる。

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posted by 熊野まゆ at 06:51| 双鬼と紅の戯曲《完結》

2018年05月27日

双鬼と紅の戯曲 第三章06


 胸のつぼみをいじる手はそのままに、もう片方の手がするすると肌の上を滑って脚の付け根へ向かう。
 太ももの内側をさすられるものだから、くすぐったくなってもじもじと内股を動かした。
 大きな手のひらが茂みのあるほうへと伸びていく。

「ン……ふぅ……」

 彼がなにをどうするつもりなのかまったくわからない。ただ、ふだんは秘めている恥ずかしい箇所を暴かれるのでは、という漠然とした思いがあった。
 極夜は浅い茂みを指に絡めたあと、人差し指をすうっと振り下ろして裂け目を撫でたどった。

「んんっ!」

 触れられた箇所から甘い快感が生まれて頭のほうへ駆け上がってくる。
 他人には見せない秘めやかな箇所に触れられることで実感する。彼の気持ちまでも自分に向いているのだと思うと嬉しくて涙腺が熱くなる。
 ふと極夜が薄桃色の棘を舐めるのを中断した。

「あふれている」

 そうつぶやき、ふたたび乳頭を舐めしゃぶる。

「ふ、うぅ」

 彼といろいろな話をしたいと思っていたけれど、こうして一方的に聞かされるだけなのはなんだか恥ずかしい。

(よくわからないけれど……あふれている、っていうのはきっと淫らなことなのだわ)

 責められているわけではないと思う。だって、彼はどことなく嬉しそうだから。
 笑っているわけではない。嬉しい、と言ったわけでもない。それでも、長年一緒にいるからわかる。むしろいままで、なぜ彼の本心を理解できなかったのだろう。
 もしや好かれているのでは、と思うことは多々あったが――怖かったのだ。彼の気持ちを確かめることが。
 鈴音は極夜の背に腕をまわした。艶やかな黒髪を撫でまわす。

「ん――」

 鈴音の行動に驚いたらしい極夜が顔を上げる。薄茶色の瞳がわずかに朱を帯びていた。吸血のとき以外も瞳の色が変化するのだと、はじめて知った。

「嫌、でした……?」

 極夜はすぐに首を横に振る。何度もそうして、「嫌ではない」と訴えてくる。
 いままで遠慮して、できなかったことをたくさんしたい。
 もう決して、彼の紅い瞳から目を逸らさない。
 いつまでも見つめていたいし、見つめられていたい。

「愛しています」

 いままで伝えてこなかったぶん、想いが口からあふれだす。
 すると極夜は照れたようにほんの少し口角を上げた。そんな表情は新鮮で、自分だけに向けられたものだと思うとこちらまで顔がほころぶ。
 極夜は身を起こし、鈴音の唇をそっと塞ぐ。そのあいだも彼の両手は動き続けた。乳頭をいじり、蜜のあふれ口を指先がかすめ、その上にある豆粒に愛液を塗り込めていく。

「ん、んんっ……!!」


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posted by 熊野まゆ at 07:43| 双鬼と紅の戯曲《完結》


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