2017年10月28日

俺さま幼なじみとの溺愛同居04



「う、うぅっ……!」

 うめき声が聞こえた。それはほかでもない、自分のものだ。
 夢を見ていた。それはふだんは決して見ることのないような――そう、体に漬物石を巻きつけられて海の底に沈められる夢だった。

「――起・き・ろ!」

 ひどく低い、不機嫌そうな声で呼びかけられ、しかしすぐには目が開かない。接着剤でもつけられているんじゃないかと思うほど重いまぶたを何とかして持ち上げると、焦点が合わないくらい間近にだれかの顔があった。

「〜〜!!??」

 少しでも唇を動かせばそこにいる弘幸のそれにぶつかってしまうのではないかと思う。弘幸は未来の体に覆いかぶさり、彼女の顔をのぞき込んで眉間にシワを寄せている。

「おまえ、ほんっと寝起き悪いな」
「ふぐっ」

 大きな手のひらで両頬をパチンと叩かれる。ああ、叩き起こすというのは冗談ではなかったのか。

「さて、おまえの朝の仕事は何だ?」

 言葉がすぐには出てこなかった。言わなければいけないことはわかっているのに、急に目覚めたせいか動悸がひどい。

「あ……朝ごはんを作ることです」

 やっとの思いでそう言うと、弘幸は満足げにほほえんだ。

「よろしい。さっさと起きろ」
「あの……起き上がりたいんですが」

 布団の上からとはいえこうも重くのしかかられていてはまるで身動きが取れない。

「ああ、悪い」

 わざとらしい調子で謝りながら弘幸はベッドから離れる。そしてそのまま、部屋の隅に置いてある一人掛けのソファに腰を下ろしてしまった。長い脚をクロスさせてくつろいでいる。

「あの……着替えたいんですが」

 ベッド端に腰掛け、ムッとした顔つきのまま未来がそう言うと、

「ああ、着替えれば?」

 弘幸は「なにか問題が?」と言わんばかりの素知らぬ顔でそう答えた。

「――っ、出てってよ!」

 未来はパジャマの上着の裾を押さえて息巻く。いっぽうの弘幸は、唇を引き結んで不満そうに無言で出て行くのだった。


(もうっ、ヒロくんてばなに考えてるの!?)

 白いブラウスの上にエプロンをして未来はトントントン、と包丁を上下に走らせる。「出て行って」と言わなければあのまま部屋に居座るつもりだったのだろうか。

(そりゃあ、私の着替えなんて見てもどうせヒロくんは何とも思わないんだろうけど)

 ふだんから子ども扱いされているのだ。いまさら下着のひとつやふたつ、どうということはないのだろう、彼にとっては。
 しかし未来にとっては違う。彼は以前から、どんなときも意識すべき異性なのだ。

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2017年10月23日

俺さま幼なじみとの溺愛同居03



(うぅ……でも、やっぱりカッコイイ)

 いつもさんざん悪口を言われるのに、彼の見目がいいせいで話すときは緊張してしまう。カッコイイだなんて思ってしまう。

(優しいところもあるのはあるけど……いっつも私をバカにするしっ)

 助けてくれるのは、本当に困っているときだけだ。いや、救いの手を差し伸べてくれるのだから感謝せねばならないのだが、彼はいつも一言多いのでつい憎まれ口ばかりになる。

(ヒロくんはきっと性格のせいで彼女がいないんだ)

 何年か前までは彼女がいたはずだ。私が中学生ぐらいのとき、実家の近くを綺麗な女性と歩いているのを何度か見かけたことがある。しかしここ数年はぱったりとそれがなくなった。

(もしくは、仕事が忙しくてそんな暇がない、とか……?)

 未来はあごに手を当てて「うーん」とうなったあとで彼に尋ねる。

「ねえ、会社ってどんなところ?」
「は? 唐突だな。べつに、ふつうの会社」
「ふつうって……なにがふつうなのかわかんないんだけど」
「んん? うーん、おまえは事務の採用だよな。そうだなー……とりあえず遅刻の心配はないから安心しろ。ああ、それと会社までの道で迷子になることもない。俺が毎日一緒に通勤してやるから」

 会社のようすの説明になっていない、とツッコミを入れたいところだったが、それよりも気になるのは彼の最後のほうの言葉だ。

「ええっ、一緒に行くの!?」
「なんだよ、当たり前だろ。同じ家に住んでるんだから」
「会社の人にへんに思われたりしないかなぁ……」
「平気平気。みんな忙しいんだからいちいち他人にかまわないって」

 未来は甘いコーヒーをごくりと飲み込んでから「そういうもの?」と返して続きをうながす。

「そうだよ。それから、新人研修のあとは俺と部署も同じになるように社長に頼んでおいたから、おまえは大船に乗ったつもりでいろ」
「ええぇっ!?」

 あとほんの少しタイミングがずれていたら口からコーヒーを噴き出してしまうところだった。

「何でそんなことできるの? 社長さんと知り合いなの?」
「俺と社長は飲み仲間だ。行きつけの居酒屋がたまたま一緒だったんだ。今度連れて行ってやるよ。渋いとこだけどな」

 弘幸は爽やかに笑い、立ち上がる。キッチンカウンターの端に置いてあったカゴからチョコレートとおぼしき箱を取り出した。「食うか?」と尋ねられる。

「た、食べる……けど」
「けど、なんだよ」
「いや、べつに……」

 差し出されたチョコレートを「ありがとう」と言いながら受け取る。

(ヒロくんって、けっこうお世話好きなのかな?)

 ふだんの彼からはあまりそういうふうには見えないが、じつはそうなのだろう。

「え、っと……いろいろとよろしくお願いします」

 何となく癪だが世話になるのには違いないから挨拶はしておかなくては。しかし弘幸にとっては未来がそうして律儀に挨拶したことが意外だったのか、ぽかんとしたあとで照れくさそうにガシガシと頭をかいた。

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2017年10月22日

俺さま幼なじみとの溺愛同居02



(まぁそりゃ、ヒロくんはお兄ちゃんみたいなもんだけどさ)

 未来は両手に持ったままだった、オレンジジュースが入ったグラスをじいっと見つめる。そこに映る自分の表情は浮かない。

「ヒロくんは大丈夫なの? ……その、彼女……とか」

 トクトクと心臓が鳴るのはなぜだろう。

「いたら同居なんて提案しないっての」
「む……」

 ――私にカレシがいないのはここにいる全員が知っていることだから、問い返されはしない。ちょっと悲しい。

「じゃ、決まりね! 未来ちゃん、これからもよろしくね」

 弘幸の母親に満面の笑みを向けられる。

「毎朝しっかり叩き起こしてやるから、朝飯よろしくな」

 いっぽう弘幸は焼酎のグラスを差し出してきた。乾杯しようということだろうか。
 未来はオレンジジュースが入ったグラスをおずおずと弘幸のほうへ向けて、小さな声で「お世話になります」と言いながらグラス同士を控えめにコツンと合わせた。


 弘幸のマンションに引っ越す日。雲ひとつないのは、彼が晴れ男だからだろう。
 引っ越しはあっという間に終わってしまった。そもそも生活用品はあらかじめそろっているし、未来が持ってきたものといえば化粧品や着替えくらいだ。未来が使う部屋はゲストルームとして使っていたらしく、ベッドはもとからあった。

「未来が社会人――って、イマイチ実感がわかないな」

 早々に荷物を片付け終えたふたりはリビングのソファに並んで座っていた。ソファの前のローテーブルにはコーヒーが置いてある。弘幸が淹れたものだ。

「おまえ、まだまだ子どもだもんなぁ?」

 洒落たコーヒーカップの中に砂糖とミルクを放り入れたところでそんなふうに言われてしまった。未来は頬をふくらませる。

「大人でもコーヒーのブラックを飲めない人はいるでしょ!?」

 未来は両手でカップを持ち、「ふー、ふー」と息を吹きかけてコーヒーを冷ます。弘幸はそのようすをニヤニヤとした面持ちで見ていた。

(猫舌なのも、きっと子どもだって思ってるんだ)

 横目でジロリと彼を一瞥して、甘いコーヒーを口に含む。コーヒーを飲んだら気持ちが落ち着くかと思ったが、そう都合よくはいかなかった。弘幸と二人きりで話すのは初めてなのだ。

(……私ばっかり緊張しちゃって、バカみたい)

 余裕たっぷりに長い脚を組んで片手でブラックコーヒーをすする彼はいかにも大人というような風情をただよわせている。
 彼はもとから髪の色素が少し薄い。彼の祖父のそのまた祖父が外国の人だったのだという。そのせいか鼻は高く目もくっきりとした二重まぶたで、一見すると品のよい王子様のようなのだが、見た目とは裏腹に口は悪いし人使いは荒いし、外見からは想像できない性格なのである。
 未来は彼を盗み見るのをやめて視線を前へ戻した。電源の入っていない大きなテレビに弘幸が映り込んでいる。

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2017年10月21日

俺さま幼なじみとの溺愛同居01



「――じゃ、俺のとこ来る?」

 唐突に言われ、時任 未来《ときとう みく》は何度も何度もまばたきをした。
 いや、話の流れからしたらそれほど突然のことではなかったのかもしれないが。


 それは新年を迎えて間もなくのこと。
 実家からは少し遠い会社に就職が決まって、さあ今度は住む場所はどのあたりにしようかと、新年会がてら家族をはじめ親戚や両親の友人がそろって話をしていたときだった。そこには隣の家から遊びに来ていた7つ年上の幼なじみ、佐伯 弘幸《さえき ひろゆき》も同席していた。

「いきなり一人暮らしなんて、この子にできるかしら。それにあっちのほうは何だか物騒だって聞くし」

 テーブルを挟んで向かいに座る母親はあごに手を当てて渋面を浮かべていた。未来はオレンジジュースをぐびっといっきに飲み干してから言う。

「大丈夫だって。私、もう22歳なんだよ?」
「でもねぇ……あなた、うっかりしたところがあるから」

 母親のそんな言葉に親戚、それから両親の友人までもが同調する。

「そりゃ違いない。未来ちゃん、このあいだまたバスに乗り遅れてただろう」

 近所に住む叔父に指摘され、未来はギクリとして肩をすくめる。叔父の家はバス停のすぐ近くなのだ。窓か庭から見ていたのだろう。

「あれは……たまたまだよ」
「いいえ、それだけじゃないわ。昨日のニュースでやってたわよ、若い女性の一人暮らしを狙って下着泥棒が出たんですって」
「まあそうなの? 怖いわねぇ」

 その話題には親戚のおばちゃん一同が大きくうなずき、「やっぱり未来ちゃんに一人暮らしなんて無理よ」と言い始めた。

「でもここからじゃ会社まで遠いんだもん。ただでさえ朝が弱いのに……遅刻しちゃう」

 そこで、「じゃ、俺のとこに来る?」と発言したのが弘幸だ。なにを隠そう、未来は彼が勤めているのと同じ会社に内定したのである。
 弘幸は焼酎を一口飲んだあとで不敵にニッと笑った。

「俺の家、会社から徒歩三分だから。部屋、余ってるし。朝メシ作ってくれるやつがほしかったところだし。おまえ、料理だけは得意だろ?」

 笑った顔のまま横目で弘幸に熱視線を送られ、未来は「いや、その」と口ごもる。

「それ、いいじゃない!」

 弘幸の母親は「未来ちゃんが一緒に住んでくれれば弘幸の食生活もぐんとよくなるわ」と付け加えて、「ねえ、一恵ちゃん?」と未来の母親に同意を求める。

「そうね、弘幸くんが一緒にいてくれれば安心だわ。ね、お父さん」
「ん、ああ……そうだな」

 父親までもが賛成したとなれば、もうこの流れは変えられない。

「や、ちょっと……!」

 ――年頃の男女が一つ屋根の下に住むのをそんな簡単に認めちゃっていいわけ!?
 そう抗議したかったが、それでは弘幸を意識していますと言わんばかりだ。

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2017年10月20日

淫らに躍る筆先20【完】


 恥ずかしそうにうつむく和葉に龍生は「褒めてるんだよ」と軽い調子で言った。それから両手で和葉の脇腹を撫で上げ、ふくらみの下のほうをつかんで揺さぶる。
 揺らされているだけなのに尖りきっている自身の乳頭を見つめて和葉は「やれやれ」と思うのと同時に、そこを尖らせて興奮しているのは龍生も知るところなのだから早く触れてほしいと思った。龍生は身をひねって和葉の顔と胸をのぞき込んでいる。

「ああ、たまらないな」

 ――それはこっちの台詞だ。

「ん、んんっ……」

 律動は相変わらず緩慢だし、龍生は乳輪を指のあいだに挟んだだけでいただきをいじってはくれない。彼のモノを中に受け入れているのに、これでは依然として物足りない。

「……ごめんね」

 なぜ謝るのだろう。

「きみがじれったそうにしてるその顔が、すごく好きなんだ」
「え……!?」

 和葉は声もなくあわあわと口を動かす。

(私、いまどんな顔してるんだろ?)

 倉庫に鏡や窓のたぐいはないので自分の顔は確かめることができない。

(あ……棚のガラス戸になら映るかも)

 へんな顔ではないだろうかと心配になり、和葉はちらりと棚のほうを見やる。

「……っ!!」

 ――見なければ、よかった。

「ん……? ナカが締まったよ」
「そ……です、かっ?」

 和葉はすぐに視線を真正面へ戻す。龍生にうしろから突かれている自分のみだらな姿を目の当たりにして、いっそう情欲をかき立てられてしまったのだとは絶対に知られたくない。

「どうして興奮したの」
「ふ、ぅっ……」

 言いたくなくて、首を小さく横に振る。それでも龍生は「ねえ」と甘く低い声を出して理由《わけ》を知りたがる。抽送はよりいっそうゆるやかになってしまった。和葉のなかでなにかがプツンと切れる。

「も……むり、です……! もっと、激しく……して!」

 すると龍生はなにがおかしいのか「ふっ」と笑って、和葉の乳首をつまみ上げた。

「かわいい。大好きだ」

 誘惑的にささやきながら龍生は腰の動きを速める。

「ひぁ、あぁあっ……!!」

 急に激しくなった突き込みで体がぐらぐらと揺れる。不安定な和葉の体を龍生は乳房ごとしっかりと抱き寄せ、そのいただきを指でいじりながら腰を振りたくった。

「やうっ、ふぅ……ん、んぁっ……!」

 体の中にうずまった彼の筆先は淫らに躍り、私を快楽のとりこにする。


FIN.

お読みいただきありがとうございました!

熊野まゆ

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posted by 熊野まゆ at 09:42| 淫らに躍る筆先《完結》


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