2017年10月08日

淫らに躍る筆先14


 龍生はきっと冗談を言っただけだ。そうだとわかっているのに、

「使ってください」

 反射的にそう答えてしまった自分に驚き、うろたえる。

(さっきから私、なに言ってるの!?)

 あきれてしまう。龍生もきっとそうだろう。おそるおそる彼のようすをうかがう。龍生の顔から笑みが消えていた。驚きを含んだ、ごく真面目な顔つき。

「使う――って意味、わかってる?」

 和葉は声もなく小さくうなずく。一歩、彼との距離が近くなる。龍生は恥ずかしそうに?を赤く染める和葉のもとへじりじりと歩み寄った。

「……じゃあ、座って」

 アトリエに置かれているのと同じ椅子がこの倉庫にもある。壁際に三脚ほど並べてある。そのうちのひとつ――真ん中の椅子に、和葉は腰掛けた。
 龍生はパレットに絵の具ではなく水を載せ、真新しい絵筆を手に近づいてくる。和葉の左隣の椅子の座面にパレットと筆を置いた龍生は本当に絵でも描くつもりのような素振りでキャンパス代わりの和葉をまっさらにしていく。

「……っ」

 襟もとについていたリボンをさも当然と言わんばかりに解かれ、しだいに胸もとがあらわになる。ブラジャーのホックを外され、ブラウスの袖と一緒くたにすべて剥ぎ取られた。いま上半身はなにも身につけていない。

「うん……凹凸があって、魅惑的なキャンパスだ」

 じろじろと見下され、もともと熱を帯びていた?がさらにカァッと火照る。とっさに両手を前に持ってくると、

「そんなふうにしてたんじゃ、なにも描けないよ。両手は横へ」

 手首をつかまれて腰のほうへ移動させられる。胸をさらして椅子に座っているのは手持ち無沙汰で仕方がない。

「そのまま、ね」

 龍生は絵筆を手に取り、筆先をパレットの水で湿らせた。筆を持つ彼の手が美しいと感じているのは私だけではないと思う。
 色のついていない筆を龍生は和葉の鎖骨のあたりにあてがう。

「柔らかい筆だから痛くはないと思うけど……どう?」
「へ、へいき……です」
「……そう。平気なんだ」

 彼が笑う。どういうたぐいの笑みなのか、わかるようでわからない。
 龍生は筆先を下へと滑らせていく。胸の谷間からへそのところまで下降し、そうかと思うとすぐに胸のほうへ戻ってきた。

「んっ……」

 指先でそうされるよりも格段にくすぐったい。そうして何度も、中心線を描くように胸の谷間とへそのあたりまでを筆で往復された。

(何でもないところなのに、どうして……)

 足の付け根が潤んでいくのがわかる。彼の筆遣いはとても軽やかで――じつにじれったい。もどかしくなる。それが下半身の潤みにつながる。
 龍生の視線もまた性的な刺激のひとつだった。澄んだ瞳が熱心にこちらを見つめてくる。

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posted by 熊野まゆ at 06:25| 淫らに躍る筆先《完結》

2017年10月07日

淫らに躍る筆先13


 龍生と付き合い始めて数ヶ月が経ったある週末。和葉は絵画教室にいた。絵筆を片手にキャンパスとにらめっこをしている。
 いま描こうとしているのは熊の置物だ。鮭を咥えた熊の彫像は凹凸があって、その毛並みや色を筆で表現するのはじつに難しい。

「まずは思うまま……見たままに描いてみて」

 頭上から声を掛けられ、トクンと胸が鳴る。少しだけ顔を上げて彼を見やると、ふだんよりも少しだけよそいきの顔をしてほほえんでいた。
 和葉は「はい」と返事をしてパレットから色を取り、キャンパスにのせていく。龍生がほかの受講者のところへ行っても、なかなか胸の高鳴りはおさまらなかった。
 彼とは休日のたびにデートをして、いろいろな話をして――ついこのあいだ、深くつながり合った。彼の声を聞いて、ほんの少し顔を見ただけでその一夜を思い出してしまい、どうしようもなくなってしまったのだ。

(ああ、相変わらず情けないな、私)

 和葉は邪念を振り払うようにふるふると首を横に振って、キャンパス上の絵筆を滑らせた。


 絵画教室のあとは倉庫で後片付けを手伝うというのが習慣になりつつあった。ほかの受講者はみな帰ってしまったあとだ。

「あれ、それ……新しい筆ですか?」
「うん、そう」

 龍生は床に置いたダンボールの中から筆を取り出し、棚に並べていった。和葉もそれに倣って絵筆を棚に並べる。
 ダンボールの中に入っていたさまざまな種類の絵筆。その最後の一本を、龍生は棚に並べることなく手に持ったままにした。

「一本、新しいものに替えておこうと思って。和葉ちゃんのは大丈夫?」
「はい、私のはまだ大丈夫だと思います」

 龍生は「そっか」と返して水場へ向かう。

「新しい筆のおろしかた、わかる? よかったら見ておいて」
「はい」

 龍生のあとに続いて石造りの洗い場の前に立つ。龍生は真っ白な陶器のボウルに湯を張り、そこに絵筆を浸して指で揉みほぐしていった。

「見ておいて、なんて言っておきながら……これだけなんだけどね」

 申し訳なさそうに笑いながら龍生は指先を小刻みに動かす。
 腕まくりされた薄い青色のワイシャツ。筋張った腕。巧みに動く指先――。

「……和葉ちゃん?」
「――は、はひっ」

 妙な返事をしてしまった口をあわてて押さえる。

(私ったら、つい……!)

 性的なことを妄想してしまい、いったいなにを考えているのだろうと自分自身を責める。

「はは、どうしたの。かわいいなぁ」

 龍生はくすくすと笑って絵筆を湯から上げる。

「この筆、さっそく使ってみようか。きみの体で試し描き――なんて、ね」


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posted by 熊野まゆ at 06:58| 淫らに躍る筆先《完結》

2017年10月06日

淫らに躍る筆先12


「はぅっ……ん、んぁあっ……!」

 静かな社長室に響く自分の嬌声がやけにいやらしくて耳を塞いでしまいたくなった。しかし両手は彼の腕をつかむだけで精いっぱいだ。そうしていなければもっとめちゃくちゃにされてしまいそうだからだ。

(ううん……めちゃくちゃにされたいって、本当は思ってる)

 意識が吹き飛ぶくらい激しくして欲しい。そんな欲求も心の中に確かにある。
 龍生は和葉の心の奥底の欲求をすぐに汲み取る。

「――ふ、あ、あぁっ!」

 体の内側に入り込んできたのはおそらく中指だろう。龍生は和葉の狭道にごく慎重に中指をくぐり込ませていく。
 彼の細長い指はすぐに最奥を突いた。行き止まりまでくると、指は壁の奥にあるものを探るときのように膣壁をトン、トンとノックする。

「アッ……ん、んぅっ……!!」

 そうして最奥をつつかれるだけでも頭の中が朦朧《もうろう》としてくるのに、蜜口の上にある肉粒を親指でぎゅうっと押し込まれるものだからいよいよたまらなくなって「ひぁああっ!」とはしたなく大きな声を上げてしまう。
 そんな嬌声にまじって聞こえてきたのはぐちゅっ、ぬちゅっという水音。嬌声と競うようにしだいに大きくなっていく。

「あぁ、も……だめ、んんっ……ん、んぁあっ――……!」

 和葉は体をビクン、ビクンと脈打たせて力をなくす。彼の腕をつかんでいた両手はだらりとソファの座面に投げ出され、がくりと頭《こうべ》を垂れる。そうしていると、どこからともなく汗が噴き出てきた。額に汗がにじみ、こめかみを伝う。

「――っ!!」

 伝った汗を龍生が舐めとるものだから、驚きのあまり声が出せなかった。何てことをするのだろう。

「暑くなっちゃったね」

 そう言いながら龍生はワイシャツの襟もとのボタンを二、三個外す。

(あ……)

 いよいよ『する』のかと思った。しかし彼はいっこうに動かない。そのまま――彼にうしろから抱き込まれた状態で数十分が経過した。
 額ににじんでいた汗はすっかり乾いて、いまはむしろ涼やかだ。

「龍生さんは……その、いいんですか?」

 勇気を振り絞って尋ねた。こんなことを訊くのはどうかと思ったけれど、自分ばかりがしてもらっておいて――という引け目が少なからずあった。
 すると龍生は驚いたような顔になった。

「ん、いいんだ」

 龍生は薄くほほえんだまま続ける。

「だって、あまりにも情けない……。きみのこと、大事にしていこうって思ってるのに……さっそくこんなふうに求めてしまって。だからせめて自制する」

(龍生さんが『情けない』のなら……私も同じだ)

 和葉は頬が熱くなってくるのを感じながら、部屋の隅に置いてある、よく手入れされているとわかる観葉植物を漠然と眺めた。

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posted by 熊野まゆ at 07:33| 淫らに躍る筆先《完結》

2017年10月02日

淫らに躍る筆先11


 龍生は愛しげに和葉の顔を眺め、それから右手をさらに下降させた。彼の指先が秘裂をたどり、蜜口をかすめる。

「ふっ……!」

とたんに和葉はあせりを覚える。そこが濡れていることを知られてしまった。なにを言われるだろうかと身構える。

「……嬉しい」

 蜜をあふれさせてしまっていることを揶揄されるかと思ったがそうではなく、龍生はほほえんだだけだった。彼の気持ちを聞いて、照れと喜びでまたいっそう蜜奥が潤む。

(からかわれるほうがまだよかったかもしれない)

 下半身を中心にあらゆるところが火照っている。いま体温を測ったら平熱以上なのではないか。そう思ってしまうくらい、自分自身が熱い。

「温かくて気持ちがいいな、和葉ちゃんの体」

 龍生は和葉を抱く腕に力を込めた。そうして彼女のぬくもりを実感し、そしてその熱い体をまさぐる。左手は上半身の尖りをつまんだ。右手はそのまま秘芯をもてあそぶ。

「んぁっ……あ、あぁ……」

 彼の指先はじつに絶妙で、肌に触れてはいるもののいかんせん弱い。それがたまらなくじれったい。もっと強くなぶって欲しいと思うけれど、まだそれを言えるような仲ではないしなによりはしたない。そうなるとひたすらこのじれったい快感に耐えるしかないのだ。

(もっと、ちゃんと……)

 じれったさは言葉に出せないぶん態度に表れる。和葉はくねくねと体をよじらせてもだえた。

「――ん」

 和葉が身をくねらせることで堪えたのは龍生だ。両手の動きをしばし止めて、深呼吸をする。

(あ……もしかして)

 彼もまたじれったさを感じているのかもしれない。

(どうしよう、龍生さんの――も、触ったほうがいいのかな)

 そう自覚したとたんに、お尻に当たっている硬いモノの存在を看過できなくなった。和葉はちらりとうしろを見やり、彼のようすをうかがう。

「……なに?」
「あ……え、っと。いえ……」

 下半身の一物に触りましょうか、などと提案できるはずもなく、和葉は顔を前へ向ける。龍生はそれを愛撫の催促だと思ったのか、急に和葉の体を強くいじり始めた。
 急に乳首をぎゅうっとつままれ、下半身の小さな豆粒も同じように指でひねり上げられる。

「ひゃっ、あぁッ!」

 それまでじらされていたぶん、堰を切ったように快感があふれて体の中をめまぐるしく駆けまわる。さながらだれかが体のすみずみにまで「快感が訪れた」とふれてまわっているようだった。
 和葉の息遣いが荒くなるのと同時に龍生もまた彼女の耳にたっぷりと熱い息を吹きかけた。指先を忙しなく前後させて和葉の性感帯をひっきりなしに刺激する。

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posted by 熊野まゆ at 08:09| 淫らに躍る筆先《完結》

2017年10月01日

淫らに躍る筆先10


「そ、そこ、は……」
「うん」

 答えを急かすように龍生は和葉の乳頭をひねり上げる。

「ふぁっ……!」

 硬く尖りきった薄桃色の棘を指で執拗にこねながら龍生はなおも白々しく答えを急かす。

「早く教えて」

 追い立てるようにふくらみのいただきをこすり合わされ、そこから快感が体の隅々にまで広がる。手足の先が疼いて甘さをたたえる。

「わ、私の……っ、ち」

 耳たぶを這ったのは先ほど首に感じたのと同じ、龍生の熱い舌だ。和葉はますます恥ずかしくてたまらなくなる。しかしそのいっぽうで疑問も浮かんだ。なぜ正直に答えなければならないのだろう。龍生は答えをわかりきっているはずなのに。

「〜〜もうっ、わかってるんでしょう!? 龍生さんのいじわる……!」

 すると龍生は目を閉ざしたまま「ふっ」と楽しげに笑った。

「ん、ごめん。……はぁ、やっぱりかわいいな。和葉ちゃん」

 頬ずりをされた和葉は「かわいいのはあなたのほうです!」と叫んでしまいたくなった。

「乳首をこうされるの、気持ちいい?」
「ちっ……う、うぅ」

 和葉が恥ずかしがって言わなかった単語を龍生はたやすく口に出した。彼は恥ずかしくないのだろうか、と思いながら和葉は「んん」と喘ぐ。龍生の問いに対して「はい、その通りです」とは言わない。――言えない。
 そうしているあいだに彼の手がスカートの裾をめくり上げた。いやに的確だ。目をつぶっている状態でよくそんなことができるものだ。
 和葉は目だけを横に動かし、そのあと顔も横へと傾けた。彼と、目が合った。

「――目、開けてるじゃないですかぁっ!」
「あ、ばれちゃった。ごめんね、つい出来心で」

 本当に悪いと思っているのか、龍生はどこか飄々としている。

「でも……やっぱり見たいんだ。きみのいろんなところを」

 いつの間にか龍生の右手は下着の中へとくぐり込んでいた。へその下からショーツの中に手を突っ込まれている状態だ。

「ぁっ……!」
「ここも、柔らかいね。ふわふわしてる」

 指で茂みを漁りながら龍生は和葉の顔や胸もとに視線を走らせる。

「和葉ちゃんの乳首、まだ尖ってる。……感じてる?」
「そっ……ぅ、ふぅっ……」

 あのころは、こんなことを言うひとだなんて思いもしなかった。同年代の男の子とは違って紳士的で、優しくて、困っていたら助けてくれて。そんな『りゅうくん』に憧憬を抱いていた。もっと近づきたい、もっといろんな彼を知りたい。そう思っていた。

(大人になってから知ることになるなんて)

 蓋を開けてみれば彼は意外と性に奔放なのかもしれない。しかしそれでショックを受けることがなかったのは、自分自身も多感な時期を過ぎているから。お互いにもう、いい大人だ。

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posted by 熊野まゆ at 16:01| 淫らに躍る筆先《完結》


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