2018年03月24日

甘い香りと蜜の味16


 美樹がすぐに拒んだものだから、拓人は不満そうだった。いつになく子どもっぽく唇が尖っている。

「じゃあ、こっちは……? 触ってもいい?」
「……っ!!」

 紺色のスカートの上から脚の付け根をさすられる。
 先ほどすぐに「だめ」だと言ってしまった手前、拒絶しづらい。

「直接じゃ、なければ……」

 彼の顔を見ながら言うことはできなかった。
 美樹はあらぬほうを向いて瞳を潤ませる。そこに、直接ではないにしろ触れられるのだと思うと、とたんに緊張した。

「んん……、わかった」

 拓人は美樹のスカートに載せていた手をゆっくりと動かして裾をめくる。それから彼はソファを下りてカーペットの上にひざまずいた。

「直接じゃなきゃ、なにしてもいいってことだよね?」
「え――!?」

 見上げてきた彼はどこか挑発的だった。脚を左右に大きく開かされる。

「あ、あのっ、やっぱり……その」

 明るみに出たショーツは少女趣味の野暮ったいものだった。こんなことならもっと大人っぽいものを履いていればよかった、と思ったところでもう遅い。

「いまさら『だめ』はナシだよ?」

 開かされてしまった脚を閉じようとしたが、拓人に両手で押さえつけられているので少しも動かせない。

「……美樹ちゃんが痛がるようなことはしない」

 そう宣言して、拓人は美樹の太ももを付け根に向かってすうっと撫で上げた。

「うぅ……」

 何でもないところを撫で上げられ、くすぐったさとともに官能的ななにかを感じて美樹はうめく。
 大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。「深呼吸をして」と言われたわけではないが、そうすることで幾分か落ち着く。
 彼の手は緩慢に動き、ショーツの端に差し掛かる。そのままゆるゆると真ん中のあたりまで這っていった。

「あ、っ――」

 息が止まりそうになる。いや、一瞬、止まってしまった。ショーツ越しに敏感な豆粒を押されたからだ。
 体のなかを駆け巡ったのは、恐怖心とは違うなにか。
 美樹はふたたび深呼吸する。いましがた駆け巡ったものが何なのか、確かめるように。
 拓人はしばらく両手を動かさず、美樹のようすをじいっと観察していた。怖がっているのではないと判断したのか、再度動き出す。

「んっ……ぅ!」

 生地の向こう側で割れ目になっているところを拓人はカリカリと指先でこすり立てた。
 それほど強い力ではない。先ほどほとばしったものが何なのかはっきりした。それは快感にほかならない。気持ちいい。それに尽きる。

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posted by 熊野まゆ at 05:53| 甘い香りと蜜の味《完結》

2018年03月18日

甘い香りと蜜の味15



「ひとまず、深呼吸してみる?」

 絵本でも読み聞かせるような調子で穏やかに言われ、美樹はそのとおりに大きく息を吸い、静かに吐き出した。彼につかまれたままの胸がゆっくりと上下する。

「もう一回」

 言われるまま、何度か深呼吸をした。
 そうして大きく息を吸い込んだとき、ふたつの薄桃色を指でつんっと押し上げられる。

「ふぁっ!」

 息を吐き出すのと同時に、つい大きな声が出てしまった。

「嫌だった?」
「い、嫌では……なくて……その」
「……痛かった?」

 悲しそうに、眉尻を下げて尋ねられれば何だか返って悪いことをしているような心地になる。
美樹はぶんぶんと首を横に振った。

「じゃあ、どう感じた……?」

 本音を言うのはしばしためらわれたが、拓人に「教えて?」と優しくまくし立てられて、答えざるをえなくなる。

「き、きもち、い……」

 小さく告白すると、彼は嬉しそうににっこりとほほえんだ。
 美樹もつられて笑顔になるものの、頭のなかにふと疑問が浮かぶ。
 ――あれ? もしかして、言わされた!?
 いや、そんなことはないだろう。彼は優しい人だ。
 うんうん、と心のなかでうなずく美樹の首すじに拓人は顔をうずめる。

「甘い匂いがする」
「えっ!? あ、ええと……そうですか?」

 そういえば、ボディソープはバニラの香りを使っている。
 美樹もまた息を吸い込む。

「拓人さんのほうが……甘い」
「そうですか?」

 クスッと笑いながら拓人は美樹の言葉を真似て、ちゅっと彼女の肌を吸った。

「んっ」

 彼の両手が胸の先でモゾモゾと動く。薄桃色の尖りを、軽く撫でるようにして拓人にくすぐられている。

「やっ……くすぐったいです……!」
「くすぐってるからね。……体の力、少し抜けてきた……かな?」
「ふ、うぅっ……!」

 美樹は拓人の両腕をつかんでくねくねと身をよじった。触れられて怖いという思いが薄れてきている。

「……そろそろ舐めてもいいかな」
「――っ!? だ、だめです」

 どこを舐めるのかと言われれば十中八九、いま彼が指先で触れているところだろう。

(舐められる、だなんて……!)

 想像しただけで羞恥心が爆発しそうだった。

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posted by 熊野まゆ at 07:56| 甘い香りと蜜の味《完結》

2018年03月17日

甘い香りと蜜の味14


 美樹がすべて言い終わっていないにもかかわらず拓人は「いやだ」と言って彼女の要望を突っぱねた。

「店の制服、似合ってるよ」

 唐突にも思える言葉には続きがある。

「だからこそ、この服が乱れてるところもよく見たい」

 視線が痛いと感じたのは初めてだった。
 間近から、射るように注がれる拓人の視線。顔や胸もとを舐めるように見まわされている。
 心臓だけでなく、どうしてか下半身までもがドクドクと強く脈を打ち始めた。そんなところにも脈を打つ器官があったのだろうかと疑問に思う。
 コツン、と彼の額がぶつかる。間近に迫った拓人の顔に気を取られているあいだに、ふくらみのいちばん尖ったところに彼の指先が触れていた。

「あっ……!」

 ツンッとつつかれたのは、一瞬のこと。
 彼の指は乳頭をわずかに弾いただけだというのに、両肩をつかまれて体をガクガクと揺さぶられたときのような衝撃があった。
 坂道を全力で登ったあとのように息が切れて、胸が鳴る。
 口を開けたり閉じたりしてうろたえる美樹を見て、拓人は口もとの笑みを深めた。

「かわいい」

 ぽつりと言って、拓人はふたたび美樹の胸もとへ手を伸ばす。

「あ、あのっ」

 反射的にそこを隠そうとしたが、それよりも先に拓人の手が触れた。外側から包み込むようにして乳房を持ち上げられる。
 乳頭を指で弾かれるのよりも衝撃は少なかったものの、それでも恥ずかしいのには違いない。
 ――こんなこと、想像もしなかった。
 彼とどうにかなりたい、と少しも思わなかったわけではない。けれど切望していたわけでもない。拓人の温かな手のひらは大きく、ごつごつとしていて、自分とは絶対的に違うものなのだと思い知らされ、少々怖気づいてしまう。
 この男性的な両手から繊細で甘いケーキが生み出されているのだと思うと、妙な感じがした。

「……柔らかい。美樹ちゃんの肌」

 感じ入ったようすで拓人がつぶやく。やわやわと胸を揉み込まれている。

「ん……ん、ぅ……」

 美樹の体は強張っていた。拓人が手を動かすたび、ビクッ、ビクッと小刻みに揺れる。

「怖い? 俺に触られるの」
「う、んん……少し」
「……そうだよね。ごめん」

 しかし拓人は美樹を放さない。それどころか、よりいっそう彼の手に力がこもる。

「でも、やめたくない。美樹ちゃんが怖くないように、少しずつにするから……いい?」

 美樹はしばしためらったあとで、小さく「はい」と返事をしながらうなずいた。
 ――彼は私を家に帰そうとしていたのに、「いい」と言って無理に留まったのだ。
 それに、彼に触れられるのが嫌なわけではない。

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posted by 熊野まゆ at 06:31| 甘い香りと蜜の味《完結》

2018年03月11日

甘い香りと蜜の味13



「でも、俺……このままじゃ、その」

 彼の視線が泳ぐ。頬がほんのりと赤い。初めて見る表情だった。
 五歳年上で、いつも余裕たっぷりで。何だってそつなくこなす彼が、頬を赤くしてうろたえている。

「あ……。い、いい、ですよ……?」

 ついそんなふうに言ってしまったあとで、すごく大胆な発言をしてしまったのでは、と後悔する。なぜなら、彼の表情が一変したからだ。

「意味、わかって言ってる?」

 真剣な表情。からかいのない声音。
 どくっ、と胸が大きく鳴って、緊張感に拍車をかける。

「わかってる……と、思います」

 その一瞬、壁掛け時計の秒針が進むカチッという音が妙に耳を打った。

「そっか――」

 肩をつかむ彼の手に力がこもる。
 急に目の前が暗くなって、気がついたときにはすでに唇が離れていた。

「あ、っ……」

 キス、された。それを認識するのに手間取っていたせいで、制服のベストと、なかに着ているシャツの胸もとを乱されていることにしばらく気がつかなかった。
 そうして下着があらわになると、拓人は目を細めて下着と肌のあいだに手をくぐり込ませた。

「――っ!」

 ふくらみの尖っている部分を、彼の指先が探るようにかすめる。

「こんなふうに乳首をいじられるんだ――って、美樹ちゃんはわかってたんだね?」
「……!」

 小さく首を横に振りながら美樹はうつむく。確かに先ほど、「わかっている」と答えたものの、具体的なところまで考えが及んでいなかった。漠然としか思い描けていなかった。
 拓人は左手で美樹の体を背中から抱き込むようにして、もう片方の手で彼女のブラジャーを無理やり押し上げた。その性急な手つきに、美樹は「ぁっ」と小さく戸惑いの声を上げる。

「たっ……拓人、さん」

 いいですよ、と言ってしまった手前、いまさら「やめて」とは口にすることができず美樹は胸もとを隠すだけになる。

「よく見せて」

 語調は強く、命令的だった。彼はいつだって物腰が柔らかいから、別人になってしまったような気さえしてくる。
 薄くほほえんだままの彼に両手首をつかまれる。ゆっくりと、しかし抗えない力で手を左右に開かされる。
 なにを言うでもなく、むき出しの胸を見おろされる。無言でそこを凝視するのはやめて欲しい。いたたまれない。

「あ、あのっ……ええと……電気を、その」

 せめて部屋の電気を消してもらいたい。そうでなければ恥ずかしくて卒倒してしまいそうだ。

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posted by 熊野まゆ at 06:38| 甘い香りと蜜の味《完結》

2018年03月10日

甘い香りと蜜の味12


 どくどくどく。自分の心臓の音で、彼の声が聞こえなくなってしまうのではないかと心配になった。
 昨夜、お風呂のなかで何度も思い浮かんでは自分自身で打ち消してきた言葉を、拓人が紡ぐ。

「ずっと好きだった」

 引っ込んでいた涙が、ふたたびあふれて?を伝う。すると拓人は少しあわてたようすで美樹の涙を拭った。

「ごめん、驚いたよね。いきなりこんなこと言って……困らせて、ごめん」
「こ、困ってなんか、ないです」

 涙で言葉に詰まりそうになったけれど、やっとの思いで「嬉しい」と口にすると、拓人は安心したような笑みをたたえた。

「美樹ちゃんはいろいろと不器用だけど――いや、だからか。いつも一所懸命で、それがたまらなくかわいくって」

 目もとに添っていた彼の指が肌を撫で、やがで頬を覆う。

「俺が一人前になって店を継いで、それからきみが大学を卒業したら、言おうと思ってたんだ。……なかなか、言うタイミングがつかめなかったけど」

 両頬を彼の手に包まれた。熱く、大きな手のひら。時が止まってしまったように、見つめ合う。

「俺の恋人になってください」

 その一言で、時間が動き出す。心の奥底から、体の端々から歓びが湧き起こり、またしても美樹の涙腺を刺激する。
 惚けた顔をして大粒の涙を流す美樹を見て、拓人はまた戸惑った。
 ――早く返事をしなくちゃ。泣いていては誤解される。

「わ、私でよければ……喜んで」

 涙声は弱々しく震えていた。驚きと歓びで、嬉し涙が止まらない。夢のようだ。
 再就職先が決まって、これ以上は望むまいと思っていたのに、秘めた想いまで叶ってしまった。いまこの瞬間が、人生最大の幸福ではないかと思う。
 拓人が長く息をつく。心底安心したというような、そんなため息。
 頬に添っていた彼の手がするすると肌を撫で下り、背にまわる。
 静かに、しかし力強く抱き寄せられた。彼の胸に顔をうずめる。

「あ、あの……。拓人さんのシャツが、私の涙で汚れちゃいます」
「じゃあ、泣き止んで?」

 手放す気はないらしい。

「ん……」

 美樹はあいまいに返事をして、何とか涙を我慢しようとする。

(拓人さん……あったかい)

 彼の温もりを感じながら、どれだけそうして抱き合っていただろう。あたりはすっかり暗くなってしまった。

「……今日はもう帰ったほうがいいね」

 そっと体を離された。急に体が寒くなったような心地になる。

「も……もっと、一緒にいたいです」

 ――だって、せっかく想いが通じ合ったのに。

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posted by 熊野まゆ at 06:45| 甘い香りと蜜の味《完結》


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