2017年04月02日

伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 終章06



(また……ののしられるわ。たったこれだけの愛撫で、って)

 控えめに乳首を舌でつつかれ、尻を撫でまわされている。ただそれだけだというのに、内奥から湧き出した蜜がすぐそこまできているのがわかる。エリスの両腕はがくがくと震えていた。
 ふと愛撫がやんだ。ジェラルドはエリスの体を抱え上げるようにしてベッドへ横たえる。
 エリスは上半身を淫らにさらしたままベッドに片肘をついて体を支えた。それをジェラルドが官能的な憂いを帯びた瞳で見つめる。

「今日のきみは一段と美しい……。もちろん、普段着でも可憐なのには違いないが」
「や、っ……お世辞はやめてください! むずがゆくなる」
「世辞などではない。本心だ」

 ジェラルドは目を細めて身をかがめ、むき出しのままだった薄桃色の乳嘴をべろりと愛おしそうに舌のすみずみまで使って舐めしゃぶった。「美味い」とつぶやきながらふたたびドレスの裾をまくり上げ、食指を臀部へと動かし、張りのある尻を執拗に撫でまわす。

「……っ」

 きて欲しくない場所に彼の指が伝い下りてくる。尻からその割れ目を通って、菊門を過ぎてさらに前へ。秘めた園の手前で指は思い出したように立ち止まる。

「きみは美しくも可愛らしい……それでいて淫らな生き物だ」

 ツプッ、と妙に軽快な水音がした。

「はっ……ん、っ!」

 蜜洞を穿った指はそう深くないところまで沈んですぐに引き返してきた。その指に、多分の蜜をまとって。
 ジェラルドは蜜にまみれた指を極上品の肉を食すときと同じように口腔に収めた。カッ、と瞬時に全身の肌が火照る。網の上であぶり焼きにでもされている心地だ。

「相変わらず感度がよろしいようで」

 慇懃無礼に言いながらジェラルドは自身のクラヴァットをほどいた。彼の上着は灰色だが、地模様が不規則に光を照り返すので輝いて見える。上質な上着をジェラルドは床にポイっと造作もなく放り投げ、ドレスシャツの胸もとをゆるめた。その仕草の一つ一つから目が離せなかった。
 ジェラルドがなかなか愛撫を再開してくれないからだ。物欲しそうな顔になっていたのか、ジェラルドが「ふっ」と息を漏らして笑った。しかしそのすぐあとにはハッとした様子で口を押さえた。

「今夜はきみを甘やかすと決めていたのに。つい、いじめたくなる……。いけないな、焦らさずすぐに愛でるとしよう」
「い――」

 いつもどおりで結構です、という言葉は発せずキスに呑み込まれた。
 ジェラルドはエリスの唇の感触を確かめるように何度も食んでくる。もう幾度となく貪り合った唇だというのに、いまはなぜか新鮮だ。

(先生が妙なことを言うから)

 どうして急に甘やかそうなんて考えたの。問いかけたいのに、口づけは深くなるいっぽうだ。息継ぎをするだけで精いっぱい。

「ン……ッ、ふぅ……!」

 いつも思う。これだけ激しく舌を暴れさせながらなぜ指までも奔放に動かせるのだろう。ジェラルドはエリスの口腔を犯すのと並行して彼女の乳頭をふたつとも指でなぶり倒した。これだけでもう達してしまいそうだった。舌と指は荒々しくも的確に官能をくすぐる。それが彼のスキルなのか、単にエリスが彼を好いているからなのかわからない。あるいは両方なのだろう。でなければこれほどまでに感じはしない。
 下半身の花芽がひとりでにヒクヒクともだえるのを感じながらエリスは吐息だけで喘ぐ。早くそこに触れて欲しくてもじもじと内股をこすり合わせると、ドレスが衣摺れの音を奏でた。それをジェラルドが聞き逃すはずもない。

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posted by 熊野まゆ at 06:17| 伯爵は肉欲旺盛なお医者さま《完結》

2017年04月01日

伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 終章05


 ジェラルドはガラにもなく薄くほほえみ、エリスの背に腕をまわした。編み上げの紐をするするとほどいていく。

「せ、先生……っ! お水を飲んで酔いを覚ましたほうがいいです」

 甘い言葉ばかりささやきかけてくるジェラルドにエリスは戸惑いを隠せない。こんな状態で肌を重ねてしまったらきっと――。
 想像するだけで羞恥の炎が内側で燃え上がった。しかしエリスの意に反して、ジェラルドはドレスを乱していく手を一向に止めない。

「ふっ……」

 コルセットがゆるむのと同時に嘆息する。そもそも着け慣れていないそれの拘束はゆるまったものの、ホッとしているいとまはない。ジェラルドの両手がシュミーズの肩紐をずるりと下げ、あらわになった薄桃色の粒をとらえる。

「ぁっ」
「もうこんなに硬くして……。ほら、俺の指を懸命に弾いてる。ああ、可愛くてたまらない」
「いっ、言わな……で、ぅっ」

 彼の猫なで声に鳥肌が立った。嫌悪からではない震えが肢体の先端までひた走り、ジェラルドの体の両側についていた手に力が入らなくなる。
 ふだんは無造作な銀色の髪の毛が額にかからないよう後ろへ撫で付けてあるせいか、ジェラルドがうっとりと笑みを深めるとまるで知らない男性のようだった。言動にしても、いくら酒に酔っているからといってこれほどまで変わるものなのか。

「あ、あなたは……本当に……先生、ですかっ?」

 よもや先日の私のように誰かと成り代わってしまったのでは、と勘ぐってしまう。

「……? おかしなことを訊くんだな。……そうだな、そろそろその『先生』というのはやめてもらいたい」
「やっ……!」

淡いピンク色の屹立を急に強くつままれてつい大きく喘ぐ。

「名前を……呼んでくれ」

 懇願してくるその声音に背すじがピリリと震える。

「い、いまさら……そんな……」

 いまでさえ優しくされて恥ずかしいというのに、名前を呼ぶなどもってのほかだ。照れくさい。
 ジェラルドはエリスに名前を呼ばせるのをあきらめたのか、それ以上は強要せずその代わりに彼女の脇に両手をくぐり込ませて引き上げた。

「――っ!?」

 突然のことに目を白黒させる。彼の顔の前に胸をさらす恰好になり、このあとなにをされるのか――予想が外れることはまずないだろう。
 予定調和さながらジェラルドは赤い舌をのぞかせてエリスのつぼみの片方を下からつつく。

「あ、ァッ」

 乳頭に触れた舌はいつもどおり意地が悪かった。探るようにツンツンと先端をつついてはようすをうかがい、エリスがわずかでも身をよじると屹立の根もとを舐めにやってくる。

「ゃっ、う……んっ、ん!」

 ザラリとした舌の感触はたまらない。体の揺れは上半身だけにとどまらず、腰までもくねくねと動いてしまう。
 ジェラルドはもだえるエリスの尻をつかんで撫でまわした。ドレスは下半身でダマになっているから、スカートの裾をめくり上げてドロワーズを引き下ろしてからの尻への接触だ。それがまたエリスの内なる快感を呼び覚ます。連鎖反応を起こさずにはいられない。エリスの蜜口は決壊寸前だ。

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posted by 熊野まゆ at 05:59| 伯爵は肉欲旺盛なお医者さま《完結》

2017年03月31日

伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 終章04



「もうっ、しっかりしてください!」
「んー……」

 夜会がお開きになるころにはジェラルドはすっかり酩酊していた。
 大きな体を何とか支えて彼を寝室へ促す。ジェラルドの足取りはおぼつかない。
 なかば放り投げる勢いでベッドに寝かせる。

(お水を飲ませたほうがいいわね)

 エリスは「うーん」とうなっているジェラルドにくるりと背を向けて歩き出す――はずだった。不意に手首をつかまれ、危うく転ぶところだった。

「ちょっ、なにするんですか! 転んじゃうところでした」

 憤りをあらわにジェラルドを見下ろす。いっぽう彼は何とも形容しがたい神妙な面持ちをしていた。

「行かないでくれ。俺にはきみが必要なんだ。きみなしでは生きていけない」

 潤んだ翡翠色の瞳は揺らめく水底のようだった。エリスはしばし固まってしまった。

「……は? ちょっとお水を取りに行くだけですよ。そんな大げさな――っ、きゃ!」

 つかまれたままだった手首を引っ張られ、ベッドに引き込まれる。春の訪れを控えめに告げているような薄桃色のドレスの裾がひらりと大きくひるがえった。
 「うっ」といううめき声はエリスがジェラルドの胸に鼻をぶつけたからだ。苦しそうにうめくエリスには気づきもせずジェラルドは彼女を腕の中に閉じ込める。

「きみのすべてが愛しい」

 頭の上から降ってきた声にエリスはぴくりと肩を震わせ、いっそう身を硬くした。まな板の上の鯉のごとくうろたえるエリスをジェラルドは自身の胸から離し顔のあたりまでグイッと勢いよく引き上げた。
 それしか目に入っていないというような恍惚とした表情を浮かべ、相変わらず潤みを帯びたなまめかしい翡翠色の瞳でエリスを射抜く。

「みずみずしい唇も薔薇色の頬も」

 言いながらジェラルドはそこへ口づけていく。

「ヘーゼルナッツのようなうまそうな瞳も」

 ためらいもなく目に唇を寄せられ、反射的に目を閉じるとまぶたにキスを落とされた。

「この胸だって」
「ひゃっ!」

 いきなり胸をわしづかみにされてあせる。もっとも、いま胸はコルセットに覆われているのであまりつかまれているという感覚はないが。
 ジェラルドが「ふう」と悩ましげに息を吐き出す。

「俺の手にすっぽりおさまって……じつに愛らしい。きみのここはとても敏感だから、いつもついイタズラをしてしまう」

 ジェラルドはドレスとコルセットに覆われた胸のいただきを指でトン、トンッと叩いた。じかに触れたくてたまらない、と顔に書いてある。

「エリス……愛しい、俺だけの天使」

 ヘーゼルナッツ色の瞳が左右に揺れる。体の内側から膨大な熱エネルギーがふくれあがってくる。胸の奥が、そして下半身が沸騰した。
 ――顔から火がでそうなほど恥ずかしい。いや、いまなら本当に火を噴けるのではないかと思う。エリスは羞恥のあまり唇をふるふると震わせた。

「しっかりしてください! どうしたんですか、いつもの無慈悲なジェラルド様に戻ってくださいっ」
「無慈悲……? ああ、わざと憎まれ口を言っているんだな。本当に可愛いやつだ」

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posted by 熊野まゆ at 05:58| 伯爵は肉欲旺盛なお医者さま《完結》

2017年03月26日

伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 終章03


 すると急にダンスホールがざわついた。何事だろう、とエリスは皆が見ているのと同じほうを向く。

(あ……!)

 衆目を集めていたのはローゼンラウス侯爵夫妻だった。遅れてやってきた彼らに皆が注目している。
 それもそのはず、正装した二人が並んでいるとそれだけで場が華やいだ。ジェラルドの兄フィース・アッカーソン、ローゼンラウス侯爵は地味な色合いのタキシードだったが、元の造作がよいためにその秀麗さをまったく押し殺せていない。彼の隣に立つ侯爵夫人のアリシアはいつ見てもやはり絶世の美女だ。鮮やかなピンク色の髪は優美に結い上げられ、傍らの侯爵に合わせたシルバーグレーの控えめな色のドレスだが、彼女の身の内からあふれだす美を隠すには到底及ばない。
 エリスは美しい二人に見とれて惚けていた。そのせいで、二人がまっすぐこちらに向かって歩いて来ていることに直前まで気がつかなかった。

「……兄さん。先日はどうも。手間を掛けた」
「ん? ああ……気にするな。可愛い弟の、めったにない頼み事だ。少しも手間じゃなかったよ」

 ジェラルドとフィースが談笑――笑っているのはフィースだけだが――しているのをエリスはただ見守っていた。

(兄弟仲はあまりよくないのかと思っていたけど……大丈夫みたい)

 ジェラルドが二人にエリスを紹介する。

「こちらはエリス・ヴィードナー。……俺の、最初で最後の……大切な女性《ひと》だ」

 エリスは目を見張りジェラルドに視線を投げる。どうしていまになってそんな紹介の仕方をするのだ。さっきまでの無味乾燥な定型句で充分だったというのに。
 耳まで真っ赤になっているエリスの手をアリシアが興奮した面持ちで取る。

「私、ずっと妹が欲しかったの。仲良くしてね、エリス。さあ、一緒にご挨拶まわりをしましょう。わからないことがあったら何でも遠慮なく聞いてね」
「は、はいっ。ありがとうございます」

 アリシアに連れられて歩き出す。視界の端にコレットが見えた。悔しそうに唇を噛み締めている彼女に向かってエリスはこれ見よがしに満面の笑みを浮かべてやった。


 ジェラルドはアリシアにエリスを連れ出されてしまい不満だった。ゲストへの挨拶は済んだので後は自由にしていても問題ないのだが――。

(エリスと踊りたかった)

 外聞のため必死にレッスンをしてくれた彼女と踊り、これまで親身に仕えてくれたねぎらいも含めてこれでもかと甘い言葉をかけてやるつもりだったのに。
 兄の妻であり幼なじみでもあるアリシアは昔からそうだ。フィースを外へ連れ出しては遅くまで帰ってこないということが多々あった。

(それで俺は寂しい幼少期を過ごし――)

 ジェラルドはハッとする。いや、寂しかったなどとは認めない。自ら進んで部屋に閉じこもり、好きで本を読んでいたのだ。
 ジェラルドは通りかかったメイドから、トレイに載ったワインを掠め取りグイッといっきにあおいだ。喉が焼けるようだった。そうだ、今日は早々に夜会をお開きにする目的で強めのワインを振る舞うことにしたんだった。

「……ジェラルド。大丈夫か、そんなに飲んで。そのワインはかなり強いだろう。もう何杯目だ?」

 フィースに声を掛けられてもワインをあおる手は止まらない。ジェラルドは一杯では飽き足らず通りかかるメイドから次々とワインを奪い飲み干していた。

「問題ない。それよりいいのか、兄さん。ご夫人が、目の色を変えた男どもの餌食になっている」

 エリスとアリシアはいつの間にか浮名の常連とも言うべき男たちに囲まれていた。ここからジロリと男たちをにらんだところで、結局は蚊帳の外だ。
 フィースが肩をすくめる。

「そっちだって、フィアンセは大丈夫なのか? あの男どもは口が達者だ」

 おまえがどうにかしてこいよ、という腹の探り合いに決着はつきそうにない。

「……そろそろ回収に行こう」

 ジェラルドとフィースは足並みをそろえ、それぞれの愛しい人のもとへ憤然と歩み寄った。

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posted by 熊野まゆ at 06:27| 伯爵は肉欲旺盛なお医者さま《完結》

2017年03月25日

伯爵は肉欲旺盛なお医者さま 終章02


 光陰矢の如し、披露目の夜会はすぐにやってきた。
 いままでレッスンをしてきたのは閑散としたダンスホール。それを見慣れていたせいか、人であふれかえっているいまはとてつもなく息が詰まる。

「……あまり気負うな。べつに上手く振る舞えなくてもいい。俺は外聞は気にしない。そもそも俺自身、愛想がよくないからな」

 ダンスホールに入るなり固まってしまったエリスをジェラルドがフォローした。

「確かに先生は無愛想ですけど、だからって……私までそうだったら、伯爵家の評判がガタ落ちじゃないですか」
「そんなもの、気にならない。伯爵家が潰れても医者として食っていけるしな」
「なっ……」
「――冗談だ。使用人達を路頭に迷わせる気はさらさらない。まあとにかく、なにが言いたいかというと……わかるだろう? さっさと挨拶まわりを済ませるぞ」
「あ、待ってください」

 先に歩き始めてしまったジェラルドをあわてて追いかける。仰々しく裾が広がった豪奢なドレスは着慣れているはずもなく、またいつものように小走りするわけにもいかない。せめて立ち居振る舞いくらいはそれらしくしていなければ、ダンスやマナーのレッスンを施してくれた講師たちに面目が立たない。
 主催者としての挨拶を貴族一人一人に始めたジェラルドの傍らでエリスはひたすら笑顔を張り付けた。「こちらは私の婚約者のエリス・ヴィードナーです」と、もう何度紹介されたか知れない。しだいに「エリス・ヴィードナー」という別の人間がいるのではないかと思ってしまうくらい、ジェラルドの紹介は無味乾燥としたものだった。

「ああ、これは……お忙しいところようこそ」

 珍しくジェラルドの声音が弾んだ。彼がいま話をしている相手は、エリスも何度か見かけたことがある、医薬品を扱う事業を展開している青年子爵だった。

(……私はこのまま待っていればいいのよね?)

 ジェラルドは青年子爵とすっかり話し込んでしまっている。二人は小難しい話をしている。とても会話に割り込める雰囲気ではないし、まだ挨拶まわりの途中だから一人で勝手にこの場を去るのもどうかと思う。

「――あらぁ、ひとりぼっちでお可哀想に。話し相手になって差し上げましょうか?」

 聞き覚えのある甲高い声に、エリスは瞬時に総毛立った。
 ちらりと振り返るとそこには、扇で口もとを隠しているコレット嬢の姿があった。エリスは心の中だけで「げっ」と言いながら引きつった笑みでやり過ごす。まともに相手をするのは癪だ。ジェラルドが側にいるからにはさすがに体当たりはしてこないだろう。

「そのドレス、よくお似合いでしてよぉ。貧相な……あぁ、失礼。華奢なお体が上手くカバーされていらしてよ」
「そうですか。私にはもったいないくらいのお言葉をありがとうございます。コレット様も、よくお似合いですよ。目にとても鮮やかなドレスですね。まるで……朝露を弾く苺のようにみずみずしくお美しい」

 まるで鮮血のよう、と言いたいのをグッとこらえてエリスはぎこちなくほほえむ。いっぽうコレットはさも当然とばかりに顎を上げて微笑した。嫌いな相手といえど褒められて悪い気はしない、といったところか。

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posted by 熊野まゆ at 06:38| 伯爵は肉欲旺盛なお医者さま《完結》


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